Power Automateの承認フローとは 作り方の手順・承認の種類・多段階承認と条件分岐を解説
2026年9月14日
著者:NEXT SCALE編集部
監修者:石丸真平

「稟議書を提出したものの、今どこで止まっているのかわからない」「経費精算の紙が回覧されるのを待つうちに締め日が過ぎてしまう」。承認をめぐるこうした滞留は、企業規模を問わず多くの現場で起きています。
Microsoft 365に含まれるPower Automateには、人の判断が必要な工程をそのまま自動化に組み込める承認機能が用意されています。申請の受付から承認依頼の送信、承認と却下の判定、結果の通知と記録までを一本のフローにまとめられるため、専用のワークフロー製品を追加導入せずに着手できます。
一方で、承認者をどう決めるか、金額によって回付先をどう切り替えるか、長期間放置された申請をどう扱うかといった設計を詰めないまま作ると、運用を始めてから手戻りが発生します。承認業務は例外処理が多く、作ること自体よりも決めることのほうが難しい領域です。
この記事では、承認フローの基本構造から具体的な作成手順、多段階承認や条件分岐の組み方、運用でつまずきやすい点への対処までを順に整理します。
| 確認したいポイント | 結論 | 詳細 |
|---|---|---|
| 承認フローで何ができる? | 申請から通知・記録まで自動化できる | トリガーで申請を受け取り、承認依頼の送信、承認と却下の分岐、結果の通知と台帳への書き戻しまでを一連で処理します。 |
| 専用のライセンスは必要? | 標準コネクタのため追加購入は不要 | 承認コネクタは標準コネクタで、Power AutomateやOffice 365、Dynamics 365の一般的なライセンスがあれば利用できます。 |
| 多段階の承認は組める? | 順次承認と条件分岐で対応できる | 承認の種類で順次承認を選ぶか、金額などの条件で承認者を切り替える分岐を挟むことで、部長から役員への回付も実現できます。 |
| 作成でつまずく点は? | 承認者の設計と例外処理で止まりやすい | 承認者の不在、30日を超える保留、通知の見落としが主な要因です。設計段階でルールを決めておくと運用が安定します。 |
この記事でわかること
- Power Automateの承認フローで自動化できる範囲と、利用に必要なライセンスや前提条件
- 5つある承認の種類の違いと、業務内容に合わせた選び方の判断軸
- 申請から承認・通知・記録までを組み立てる7ステップの作成手順
- 金額による分岐や順次承認など、多段階の承認ルートを実現する具体的な方法
- 承認者の不在や長期保留といった、運用開始後に起きやすい問題への対処法
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Power Automateの承認フローとは
Power Automateは、Microsoft 365に含まれる業務自動化サービスです。アプリやサービスをつなぐ処理を画面上で組み立てられ、その中に人の判断を挟むための仕組みとして用意されているのが承認機能です。
Microsoftの公式ドキュメントPower Automate の承認を始めましょう(Microsoft Learn)では、休暇の申請、サインオフが必要な文書、経費精算書の承認が代表的な用途として挙げられています。いずれも「誰かが確認してから次に進む」という性質を持つ業務です。
承認機能を使わずに通知メールだけを自動送信することもできますが、それでは誰がいつ承認したかという記録が残りません。承認機能は、依頼の送信と応答の受け取り、履歴の保存までをまとめて引き受ける点に価値があります。
承認フローが担う処理の範囲
承認フローは、申請を受け取ってから結果を記録するまでを一続きで処理します。起点になるのはトリガーで、SharePointリストへの項目追加、Microsoft Formsの回答送信、特定のメール受信などを検知してフローが動き出します。
続いて承認アクションが承認者へ依頼を送り、応答が返るまで待機します。承認者はOutlookのメール、Microsoft Teamsのアダプティブカード、Power Automateモバイルアプリのいずれからでも応答できます。
応答が返ると条件分岐で承認と却下を判定し、それぞれに対応した通知やデータ更新を行います。ここまでを1本のフローに収めることで、申請者が進捗を問い合わせる必要がなくなります。
承認フローを構成する4つの要素
承認フローは、どの業務でもおおむね同じ4つの要素で構成されます。最初に押さえておくと、設計時に何を決めればよいかが整理しやすくなります。
- トリガー:申請を検知してフローを開始する部分。SharePointリスト、Forms、メール、スケジュールなどが使われます
- 承認アクション:承認者に依頼を送り、応答を待つ部分。「開始して承認を待機」が基本形です
- 条件分岐:承認者の応答に応じて処理を振り分ける部分。承認と却下で処理内容を変えます
- 結果処理:通知の送信と申請データへの書き戻し。台帳の更新まで含めると後から追跡できます
この4つのうち、設計で最も時間をかけるべきなのは承認アクションと条件分岐です。誰に、どの順番で、どの条件のときに依頼するかが決まっていないと、フローの形も決まりません。
紙やメールでの回覧と比べたときの違い
紙の回覧やメールでの依頼と比べたとき、最も大きく変わるのは滞留の可視化です。承認センターには依頼中と処理済みの一覧が残るため、誰の手元で止まっているかを申請者自身が確認できます。
また、承認の記録がシステム上に残るため、後から「いつ、誰が、どのコメントで承認したか」をたどれます。監査対応や内部統制の観点でも、口頭やメールでのやり取りより追跡性が高くなります。
一方で、紙の運用では暗黙のうちに処理されていた例外が表面化します。承認者が不在のときの代理、金額が想定を超えたときの追加承認といった扱いを、事前に明文化する必要が出てくる点は認識しておきたいところです。
承認フローを作る前に確認しておく前提条件
承認フローは標準機能で組めますが、まったく前提条件がないわけではありません。ライセンス、環境、データの置き場所という3点を先に確認しておくと、作り始めてから止まる事態を避けられます。
必要なライセンスと承認コネクタ
承認コネクタは標準コネクタに分類されます。そのため、Power Automateへのアクセスを許可するライセンスがあれば、追加購入なしで承認フローを作成できます。
対象となるのは、Power Automate単体のライセンス、Office 365のライセンス、Power Automate機能が組み込まれたDynamics 365のライセンスです。Microsoft 365を業務で使っている企業であれば、多くの場合すでに条件を満たしています。
ただし、プレミアムコネクタを併用する場合は別です。基幹システムのデータベースに直接つなぐ、HTTPアクションで外部APIを呼ぶといった構成にすると追加ライセンスが必要になるため、最初は標準コネクタの範囲で設計するのが現実的です。
Dataverse環境と初回実行時の権限
承認フローで扱うデータは、Microsoft Dataverseに保存されます。既定の環境を使う場合は自動で作成されるため、特別な準備は不要です。
注意が必要なのは、既定以外の環境で初めて承認コネクタを使うときです。この場合はデータベースが自動的にプロビジョニングされますが、最初に承認フローを実行するユーザーがその環境の管理者ロールを持っている必要があります。
プロビジョニングには数分かかることがあり、初回実行時だけ待たされます。2人目以降のユーザーは昇格された権限を必要としないため、環境構築の段階で管理者が一度実行しておくとスムーズです。
申請データの置き場所を先に決める
承認フローを作る前に決めておきたいのが、申請内容をどこに保存するかです。ここが決まっていないと、トリガーも結果の書き戻し先も定まりません。
多く採用されるのはSharePointリストです。列を自由に設計でき、承認状況や承認者コメントを保持する列を追加すれば、そのまま申請台帳として機能します。入力画面を作り込みたい場合はMicrosoft FormsやPower Appsを組み合わせます。
列設計の段階で、承認状況、承認者、承認日時、承認者コメントの4列は最低限用意しておくと後から困りません。フローを作ってから列を追加すると、既存の申請データとの整合を取る手間が発生します。
承認の種類は5つ|業務に合わせた選び方
「開始して承認を待機」アクションを追加すると、承認の種類を選ぶ項目が表示されます。この選択がフローの挙動を大きく左右するため、業務の実態に合わせて選ぶ必要があります。
基本となるのは4種類で、これに順次承認が加わります。それぞれ、複数の承認者を指定したときの完了条件が異なります。
承認/拒否 – 全員の承認が必須
承認者全員が応答するまで待つ形式です。承認者に提示される選択肢は承認と拒否の2つで、全員が承認するか、誰か1人でも拒否した時点で次の処理に進みます。
複数部署の合意が必要な購買申請や、法務と経理の双方の確認が必要な契約手続きに向いています。逆に、承認者の1人が長期不在だとフロー全体が止まるため、代理承認者を含めるかどうかを事前に決めておく必要があります。
承認/拒否 – 最初に応答
指定した承認者のうち、誰か1人が応答した時点で処理が完了する形式です。同じ権限を持つ複数人のうち、手が空いている人が処理すればよい業務に適しています。
情報システム部門への申請、総務への備品発注、シフト制の現場での日次承認などが典型例です。担当者を1人に固定しないため、特定の人に承認が集中する状態を避けられます。
カスタム応答 – すべての応答を待つ/1つの応答を待つ
承認と拒否の2択ではなく、選択肢そのものを自由に定義できる形式です。「承認」「条件付き承認」「差し戻し」「保留」といった、実務に即した応答を用意できます。
「すべての応答を待つ」は全員の応答が揃うまで待機し、「1つの応答を待つ」は誰か1人が応答した時点で完了します。完了条件の考え方は承認/拒否の2形式と同じで、違いは選択肢の自由度だけです。
差し戻しを明示的に扱いたい場合は、この形式が有力な選択肢になります。ただし選択肢を増やすほど後続の条件分岐が複雑になるため、選択肢は3つから4つまでに絞ると保守しやすくなります。
順次承認で多段階の回付を実現する
承認を1人ずつ順番に依頼していく形式です。前の承認者が応答するまで次の承認者には依頼が届かないため、課長から部長、部長から役員という日本企業に多い決裁ルートをそのまま再現できます。
「開始して承認を待機」アクションの承認の種類で順次承認を選び、承認ステップに担当者を順番に追加していきます。すべての承認者が応答した時点で、後続のアクションが実行されます。
画面上で追加していく方法では人数が固定になりますが、承認ステップの入力をJSON形式に切り替えれば、申請内容に応じて承認者の人数や顔ぶれを動的に変える構成も可能です。
種類を選ぶときの判断軸
迷ったときは、次の3点を順に確認すると絞り込めます。業務ルールが先にあり、それに合う種類を選ぶという順序を崩さないことが大切です。
- 承認者は全員の応答が必要か、1人でよいか:合意形成が目的なら全員、処理の実行が目的なら1人
- 順番に意味があるか:課長を飛ばして部長が承認してよいなら並列、順序が決裁規程で定まっているなら順次承認
- 承認と拒否の2択で足りるか:差し戻しや条件付き承認を扱いたいならカスタム応答
なお、最初から完璧な形を目指す必要はありません。まず単純な形式で運用を始め、実際に出た例外を見てから種類を変更するほうが、結果的に定着は早くなります。
承認フローの作り方|7つのステップ
ここからは、SharePointリストへの申請をきっかけに上長へ承認を依頼し、結果を通知して台帳に書き戻すという最も基本的な承認フローの作成手順を追っていきます。
扱う題材は休暇申請としますが、経費精算でも稟議でも構造は同じです。トリガーと項目名を置き換えれば、そのまま応用できます。
ステップ1|申請を受け付けるリストを用意する
SharePoint Onlineでリストを作成し、申請に必要な列を追加します。休暇申請であれば、タイトル、開始日、終了日、申請理由といった入力用の列を設けます。
あわせて、承認結果を書き戻すための列も同時に作成しておきます。承認済みかどうかを示すはい/いいえ列と、承認者のコメントを保持する1行テキスト列があれば、基本的な運用には足ります。
作成したリストのサイトアドレスとリスト名は、後のトリガー設定で使うため控えておきます。ここを曖昧にしたまま進めると、似た名前のリストを選んでしまう事故が起きやすくなります。
ステップ2|トリガーを設定する
Power Automateにサインインし、マイフローから新しいフローを選び、自動化したクラウドフローを作成します。フローの名前は、後から探しやすいよう業務名を含めた形にしておきます。
トリガーにはSharePointの「項目が作成されたとき」を選択します。設定画面でサイトアドレスとリスト名を指定すると、そのリストに新規項目が追加されるたびにフローが動くようになります。
既存の申請が大量にあるリストで設定すると、想定外の件数で動作することがあります。検証中は専用のテスト用リストを使うか、フローをオフにした状態で組み立てるのが安全です。
ステップ3|申請者の情報を取得する
承認依頼の本文に申請者の氏名や所属を含めたい場合は、Office 365ユーザーコネクタのプロファイル取得アクションを追加します。承認者が誰の申請かを一目で判断できるようになり、確認の手間が減ります。
取得するフィールドは詳細パラメーターから選択できます。氏名、役職、部署、上長といった情報を取得しておくと、後の承認者の動的指定にも流用できます。
このステップは必須ではありませんが、承認依頼の情報量が承認スピードを左右するため、省略せずに入れておくことをおすすめします。
ステップ4|承認アクションを追加する
アクションの検索欄に「承認」と入力し、標準の承認の中から「開始して承認を待機」を選択します。これが承認フローの中核になるアクションです。
設定項目は主に4つです。承認の種類では前章で整理した5種類から選び、タイトルには承認者の受信箱で件名として表示される文言を入れます。割り当て先には承認者のメールアドレスを指定します。
詳細フィールドには、判断に必要な情報を動的なコンテンツで差し込みます。このフィールドはMarkdownによる書式設定に対応しているため、箇条書きや表の形に整えると承認者が読みやすくなります。
承認者を1人に固定するのか、複数人を指定するのかはここで決まります。セミコロン区切りで複数のアドレスを指定でき、承認の種類との組み合わせで挙動が変わります。
ステップ5|条件で承認と却下を分ける
承認アクションの下にコントロールの「条件」を追加します。左辺には承認アクションの出力である応答承認者の応答を指定し、演算子は「次と等しい」、右辺には「承認」と入力します。
これで、承認された場合はTrueの分岐、却下された場合はFalseの分岐に処理が流れます。カスタム応答を使っている場合は、右辺に自分で定義した選択肢の文字列を入れます。
ここでよくあるつまずきが、右辺の文字列と実際の応答値が一致していないケースです。全角と半角、表記ゆれのいずれもフローは黙って却下側に流すため、テスト時に必ず両方の分岐を確認します。
ステップ6|通知とデータ更新を設定する
Trueの分岐にOffice 365 Outlookの「メールの送信」を追加し、申請者宛に承認された旨を通知します。本文には承認者名と承認者コメントを動的なコンテンツで差し込みます。
続いてSharePointの「項目の更新」を追加し、ステップ1で用意した承認結果の列を更新します。通知だけで終わらせず台帳を更新することが、後から履歴を追える状態を保つ鍵になります。
Falseの分岐にも同様に、却下を伝えるメール送信と項目の更新を配置します。却下理由が伝わらないと申請者が再申請できないため、承認者コメントは必ず本文に含めます。
ステップ7|テストしてから共有する
フローを保存したら、リストに実際の申請を1件作成してテストします。承認センターに依頼が作成されること、承認者にメールとTeamsの通知が届くことを確認します。
承認と却下の両方のパターンを必ず試します。片方しか確認せずに公開すると、却下側の分岐だけ設定漏れがあるといった不具合が本番で発覚します。
動作が確認できたら、承認者と申請者に使い方を周知します。フロー自体を他の担当者と共有しておくと、作成者が不在のときでも修正やエラー対応ができる体制になります。
こうしたフロー設計や既存業務の棚卸しは、業務要件を文書として整理してから着手すると手戻りが減ります。要件の書き方については要件定義の例|システム種類別の要件例と、機能要件・非機能要件の書き換え集も参考になります。
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多段階承認と条件分岐の組み方
基本のフローが動いたら、次に必要になるのが実際の決裁規程に合わせたルート設計です。多くの企業では、金額や申請内容によって承認者が変わります。
ここでは、実務でよく求められる4つのパターンについて、組み方の考え方を整理します。
金額に応じて承認者を切り替える
最も需要が多いのが、申請金額による分岐です。承認アクションの前に条件を置き、金額の閾値ごとに異なる承認者を設定した承認アクションを配置します。
分岐が3段階以上になる場合は、条件を入れ子にするよりコントロールの「スイッチ」を使うほうが見通しがよくなります。あるいは、承認者のメールアドレスを変数に格納し、条件で変数の値だけを切り替えて承認アクションは1つに統一する方法もあります。
後者のほうがフローは簡潔になり、承認依頼の文面を1か所で管理できます。閾値の変更が発生しやすい業務ほど、変数方式にしておく価値があります。
順次承認で部長から役員へ回付する
決裁規程で承認の順序が定められている場合は、承認の種類で順次承認を選びます。承認ステップに担当者を上位者の順で追加していけば、1人ずつ順番に依頼が回ります。
順次承認を使わずに、承認アクションを直列に複数並べる方法もあります。この場合は各段階の間に条件を挟めるため、「課長が承認したら金額を再判定し、一定額未満ならそこで完了させる」といった細かい制御が可能です。
シンプルな回付なら順次承認、段階ごとに処理を挟むなら承認アクションの直列という使い分けが実務的です。フローが長くなるほど保守負担も増えるため、必要な段数だけに絞ることを意識します。
並列承認で複数部署に同時に依頼する
順序に意味がなく、複数部署の確認を同時に取りたい場合は並列分岐を使います。フローデザイナーで並列分岐を追加し、それぞれの経路に承認アクションを配置します。
並列にすることで、全体の所要時間が最も遅い承認者の応答時間だけで済みます。直列に並べた場合の合計待ち時間と比べると、リードタイムの差は大きくなります。
全員の承認が必要なだけであれば、並列分岐を作らずに1つの承認アクションで「全員の承認が必須」を選ぶほうが簡単です。依頼文面を部署ごとに変えたい場合にのみ並列分岐を使うと整理できます。
承認者を組織情報から動的に取得する
承認者をフローに直接書き込むと、人事異動のたびに修正が必要になります。これを避けるには、Office 365ユーザーコネクタの「マネージャーの取得」アクションで申請者の上長を自動的に取得します。
Microsoft Entra IDに上長情報が登録されていることが前提になるため、導入前に人事情報の整備状況を確認します。2段階上の承認者が必要な場合は、取得した上長に対してさらにマネージャーの取得を実行します。
組織情報が整備されていない場合は、SharePointリストに承認者マスタを作成し、部署コードをキーに承認者を引く方法が代替になります。マスタを1か所にまとめておけば、異動時の修正はリスト1行の変更で済みます。
業務別に見る承認フローの組み立て方
承認フローは、どの業務に適用するかで設計の勘所が変わります。ここでは需要の多い4つの業務について、押さえておきたい点を整理します。
自社の業務がどれに近いかを見ながら、最初に着手する1本を選ぶ材料にしてください。
経費精算の承認
件数が多く、1件あたりの判断が軽い業務です。承認者にとっての負担は判断の重さではなく件数であるため、依頼をいかに素早く処理できる形にするかが焦点になります。
領収書の画像をSharePointに保存し、承認依頼の詳細フィールドにリンクを差し込むと、承認者はメールから直接確認できます。一定金額未満は上長承認のみ、超過分は経理部門も加えるという金額分岐も定番の構成です。
月末に申請が集中する業務のため、締め日前のリマインド通知を別フローで用意すると滞留が減ります。
稟議・購買申請の承認
金額と内容によって決裁者が変わり、承認の段数も多くなる業務です。決裁規程をそのままフローに写し取れるかどうかが成否を分けます。
着手前に、金額の閾値、各段階の決裁者、代理決裁の可否を表の形で整理します。この整理ができていれば、順次承認と条件分岐の組み合わせで大半は実現できます。
反対に、規程が曖昧なまま自動化すると、承認者ごとに解釈が異なる状態が固定化されてしまいます。自動化は業務ルールを明文化する機会でもあると捉えると、取り組みの位置づけが定まります。
休暇申請・勤怠の承認
承認者が上長1人に定まりやすく、判断もシンプルなため、最初の1本として取り組みやすい業務です。Microsoft Formsで申請画面を作れば、モバイルからの申請にも対応できます。
承認後にOutlookの予定表へ自動登録する、Teamsのチャネルに共有するといった後続処理を加えると、チーム内での情報共有まで一度に片付きます。
既存の勤怠システムがある場合は、二重管理にならないよう役割分担を決めます。申請と承認だけをPower Automateで担い、確定データは勤怠システムに集約するという切り分けが現実的です。
契約書や見積書のレビュー承認
文書そのものを確認する必要があり、承認者が内容を読み込む時間を要する業務です。依頼から応答までの間隔が長くなる前提で設計します。
承認依頼にはファイルへのリンクを含め、バージョン管理をSharePointに任せます。差し戻しが発生しやすい業務でもあるため、カスタム応答で「修正依頼」の選択肢を用意しておくと実態に合います。
法務、営業、経理といった複数部門の確認が必要な場合は並列承認が向いています。部門ごとに確認してほしい観点を依頼文面に明記すると、レビューの質が安定します。
運用でつまずきやすい点と対処法
承認フローは作った時点が終わりではなく、そこから運用が始まります。実際に問い合わせが多いのは、作り方よりも運用中に起きる例外への対処です。
ここでは、事前に知っておくと避けられる5つの論点を取り上げます。
30日を超える承認への対応
「開始して承認を待機」アクションは、応答があるまでフローの実行が続きます。フローの実行期間が30日を超える可能性がある場合は、承認データをDataverseに保存する構成に切り替えます。
具体的には、フローを2本に分けます。1本目は「承認の作成」アクションで承認要求を送信するだけで完了し、2本目が承認要求への応答を受けてビジネスロジックを実行します。
この構成であれば、元のフロー実行がタイムアウトした後でも応答を処理できます。長期の稟議や年度をまたぐ契約承認では、最初からこの形で組んでおくほうが安全です。
承認者の不在や異動に備える
運用開始後に最も多いのが、承認者が出張や休暇で応答できず申請が滞るケースです。承認の種類で「最初に応答」を選び、上長と代理者の両方を指定しておくと、どちらかが処理すれば先に進みます。
異動や退職への備えとしては、前章で触れた承認者マスタや組織情報からの動的取得が有効です。フローの中に個人のメールアドレスを直接書き込むほど、保守の負担が増えていきます。
あわせて、一定期間応答がない場合にリマインドを送る仕組みも検討します。遅延アクションと組み合わせた督促用のフローを別に用意する構成が扱いやすい方法です。
承認依頼が届かないときの確認箇所
承認依頼が届かない場合、原因の多くは3つに絞られます。順に確認すると切り分けが早くなります。
- 割り当て先のアドレスが誤っている:入力ミスのほか、退職者のアドレスが残っているケースもあります
- フローの実行履歴でエラーが出ている:Power Automateの実行履歴から、どのアクションで失敗したかを確認します
- 通知が迷惑メールに振り分けられている:組織のメールフィルタ設定を情報システム部門に確認します
実行履歴は必ず最初に確認します。承認者側の問題だと思っていたものが、実際にはトリガーが動いていなかっただけということも珍しくありません。
送信済みの承認要求を取り消す
誤った内容で申請してしまった、案件そのものがなくなったという理由で、承認要求を取り下げたい場面があります。この取り消し機能は「承認の作成」アクションでサポートされています。
手順としては、Power Automateの左側メニューから承認を選び、送信済みタブで該当する要求を選択してキャンセルします。取り消した要求は履歴タブから確認できます。
取り消しの運用ルールも決めておきます。誰が取り消せるのか、取り消した場合に台帳の状態をどう戻すのかを定めておかないと、記録と実態がずれる原因になります。
社外の承認者に依頼する場合
組織外のユーザーに承認を依頼することもできます。その場合は、Microsoft Entraのゲストユーザーとして相手を招待し、承認プロセスに参加するための権限を付与します。
注意点として、招待を受諾していないゲストユーザーは承認担当者リストから外れ、承認に参加できません。依頼前に招待の受諾状況を確認しておく必要があります。
社外を巻き込む承認は、情報の取り扱い範囲にも関わります。承認依頼の詳細フィールドにどこまでの情報を載せるかを、社内の情報管理方針と照らして決めておきます。
承認フローを社内に定着させる進め方
承認フローは技術的に組めても、現場で使われなければ効果は出ません。中小企業庁の2025年版中小企業白書では、DXに向けた取り組みを進めるうえでの問題点として、費用の負担が大きいこととDXを推進する人材が足りないことが、取り組み段階を問わず高い割合で挙げられています。
つまり、リソースが限られた状態でどう進めるかという設計が、ツールの選定以上に成否を左右します。ここでは定着に向けた3つの進め方を整理します。
最初の1本は小さい業務から始める
いきなり稟議のような複雑な決裁ルートから着手すると、例外処理の検討だけで数か月かかります。承認者が1人で、判断が明確で、件数がそこそこある業務を最初の対象に選びます。
休暇申請、備品の購入依頼、日報の確認あたりが候補になります。1本目で承認センターの使い勝手や通知の見え方を関係者が体感できると、次の展開に対する納得感が生まれます。
小さく始めることには、失敗したときのコストが小さいという利点もあります。設計を誤っても作り直しが軽く済むため、学習の機会として機能します。
業務ルールを整理してからフローに落とす
自動化がうまくいかない原因の多くは、ツールではなく業務ルールの曖昧さにあります。誰が承認するのか、何を基準に判断するのか、例外はどう扱うのかを先に文章にします。
この整理は、承認フローを作らない場合でも価値があります。属人的に処理されていた判断基準が可視化されるため、担当者の交代時の引き継ぎ負担が軽くなります。
整理の結果、そもそもその承認が必要なのかという問いが出ることもあります。承認の段数を減らすことが最も効果の大きい改善になるケースは、決して少なくありません。
管理者と運用ルールを決めておく
作った人しか中身を知らないフローは、その人が異動した時点で誰も触れなくなります。フローの共有設定を行い、複数人が編集できる状態にしておきます。
あわせて、フローの命名規則、変更時の記録方法、エラー発生時の連絡先を決めます。数が増えてから整理しようとすると、どのフローが何をしているか把握できない状態に陥ります。
自動化の対象が広がってくると、Power Automate以外の選択肢が適する場面も出てきます。ツールの比較検討についてはAIツール比較|法人利用で見るべき7つの軸と主要ツールの違い、料金の目安で整理しています。
自社だけで設計しきれない場合は、外部の支援を組み合わせる方法もあります。業務の棚卸しから自動化の実装までを外部に委ねる進め方はAI業務自動化・GAS開発で紹介しています。
まとめ
Power Automateの承認フローは、標準コネクタの範囲で組めるため、Microsoft 365を使っている企業であれば追加費用をかけずに始められます。トリガー、承認アクション、条件分岐、結果処理という4つの要素を押さえれば、基本的な形は7ステップで完成します。
実務で差がつくのは、承認の種類の選び方と、多段階承認や条件分岐の設計です。全員の承認が必要か1人でよいか、順序に意味があるかという判断軸で選べば、業務に合った形式にたどり着けます。
運用面では、30日を超える承認、承認者の不在、社外への依頼といった例外への備えが必要になります。これらは事前に知っていれば設計段階で織り込めるものばかりです。
そして最も重要なのは、業務ルールを整理してから自動化に着手するという順序です。承認業務の自動化は、既存の運用を見直す機会でもあります。まずは承認者が1人の小さな業務から始めて、社内に手応えを作ることから取りかかってみてください。
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この記事の監修者
株式会社ネクストスケール 代表取締役




