DXの目的とは 手段の目的化を防ぐ設定方法と職種別の目的例、指標の決め方
2026年9月14日
著者:NEXT SCALE編集部
監修者:石丸真平

「DXを推進しろと言われたが、何を目指せばよいのかわからない」「ツールは入れたのに、何が変わったのか説明できない」。推進担当を任された人が最初に突き当たるのが、この目的の曖昧さです。
DXが進まない企業の多くは、技術や予算が足りないのではありません。何のためにやるのかが定まっていないまま、ツール導入だけが先に走っている状態にあります。
この記事では、DXの目的を5つの類型に整理したうえで、職種別や企業規模別の目的例、目的を決める5つのステップ、そして手段の目的化を防ぐ工夫までをまとめます。社内で合意を取るための材料として使える形を意識しました。
| 確認したいポイント | 結論 | 詳細 |
|---|---|---|
| DXの目的とは? | 競争優位を確立して企業価値を高めること | 業務効率化はその手前の段階です。最終的な目的は事業や組織の変革にあります。 |
| なぜ目的が必要? | ないとツール導入が目的化するため | 目的が曖昧だと成果を評価できず、現場も何のためにやるのかがわかりません。 |
| 目的は何個決める? | 3つ以内に絞る | 多すぎると優先順位がつかず、リソースが分散して結局どれも達成できません。 |
| どう評価すべき? | 導入数ではなく業務や事業の変化で測る | 取り組んだ件数を指標にすると、成果につながらない施策が積み上がります。 |
この記事でわかること
- 公的な定義から読み解くDXの目的と、IT化・デジタル化との違い
- 目的が曖昧なまま進めたときに起こる3つの問題
- 効率化から新規事業まで、DXの目的を整理する5つの類型
- 経営層・営業・バックオフィスなど職種別、企業規模別の目的例
- 目的を決める5ステップと、形骸化を防ぐための指標の置き方
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DXの目的は競争上の優位性を確立すること
DXの最終的な目的は、変化に対応できる企業へ生まれ変わり、競争上の優位性を確立することにあります。業務効率化やコスト削減は、その過程で得られる成果であって、到達点ではありません。
ここを取り違えると、ツールを入れて作業が速くなった時点で満足してしまいます。作業は速くなったが事業の形は何も変わっていない、という状態が多くの企業で起きています。
まずは公的な定義を確認し、そのうえで手前にあるIT化との違いを整理します。
公的な定義に書かれている変革の範囲
経済産業省が2024年9月に策定した「デジタルガバナンス・コード3.0」では、DXを、企業がビジネス環境の変化に対応し、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化を変革し、競争上の優位性を確立することと位置づけています(出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」 https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc.html )。
変革の対象に、組織と企業文化まで含まれている点に注目してください。システムを入れ替えるだけでは、この定義を満たしません。働き方や意思決定の仕方まで変わって、初めてDXと呼べます。
同コードは、DXが経営者主導で進める取り組みであることも明確にしています。情報システム部門に任せきりで進む性質のものではありません。
IT化・デジタル化との違いは目指す範囲
現場では、IT化、デジタル化、DXが同じ意味で使われがちです。混同したまま議論すると、経営層と現場で認識がずれます。
- デジタイゼーション:紙をデータに置き換える。アナログをデジタルにする段階
- デジタライゼーション:業務プロセス全体をデジタル前提に組み直す段階
- DX:事業や組織そのものを変革し、競争力を高める段階
順番としては、この3段階を経ることになります。いきなり最後の段階を目指しても、土台がなければ進みません。
自社がどの段階にいるかで、掲げるべき目的は変わります。紙の書類が大量に残っている企業と、業務システムが整っている企業では、次に取るべき一手がまったく異なります。
重要なのは、どの段階にいるかを自覚することです。まだ紙が残っている企業が新規事業の創出を目的に掲げても、現実的な計画になりません。
DXは手段であり、それ自体は目的にならない
DXという言葉が目的のように扱われる場面がありますが、これは正確ではありません。DXは、経営課題を解決するための取り組みの総称です。
経営課題が先にあり、その解決手段としてDXがあるという順番を守ってください。この順番が逆になると、課題と結びつかない施策が並ぶことになります。
同じことがAIやクラウドといった個別の技術にも言えます。技術の導入は、さらにその下位にある手段です。
社内で議論するときは、この階層を図にして共有すると誤解が減ります。経営課題、DXという取り組み、個別の技術という3層を分けて示せば、話が噛み合わない場面は大きく減ります。
目的が曖昧なまま進めると起こる3つの問題
目的設定を軽視して、とりあえず始める企業は少なくありません。しかし、そこを飛ばした取り組みは、ほぼ決まった形で行き詰まります。
ここでは、実際に起こりやすい3つの問題を整理します。
問題1|ツールの導入自体が目的化する
目的がないと、何をもって前進とするかがわかりません。結果として、導入したツールの数や取り組んだ施策の件数が成果として報告されるようになります。
使われないツールが増え、費用だけが積み上がる状態に陥ります。導入は判断の結果であって、成果ではないという認識を社内で共有しておく必要があります。
防ぐには、着手前にどの経営課題を解決するのかを明文化することです。その課題に対して、他の手段はないのかまで検討する姿勢があるかが分かれ目になります。
問題2|成果を評価できず投資が続かない
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」では、DXの成果について「わからない」と回答した日本企業が26.2%にのぼり、米国やドイツの5〜6%程度と比べて高い水準にあることが示されています。また日本企業の85.1%でDXを推進する人材が不足しているとされています(出典:IPA「DX動向2025」 https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html )。
成果がわからないのは、測る基準を最初に決めていないからです。目的が定まっていなければ、何を測ればよいかも決まりません。
評価できない取り組みは、次の予算を確保できません。1年目は勢いで進んでも、2年目以降に止まる企業が多いのはこの構造によるものです。
問題3|現場が動かず取り組みが止まる
なぜやるのかが伝わっていない取り組みに、現場は協力しません。通常業務が忙しくなった時点で、優先順位から外れていきます。
ツールの使い方を学ぶ研修だけを用意しても同じです。何のために使うのかを理解していなければ、研修が終わった翌週には使われなくなります。
現場が抵抗するのは、変化そのものを嫌っているからとは限りません。なぜ今のやり方を変える必要があるのかが伝わっていないだけの場合が多くあります。
目的は、現場が自分の業務に置き換えて理解できる言葉で示してください。抽象的な標語では、行動につながりません。
DXの目的は5つの類型で整理できる
目的をゼロから考えるのは難しいものです。まずは類型を知り、自社に当てはまるものを選ぶところから始めてください。
手前の類型ほど着手しやすく、後ろに行くほど難易度と成果の幅が大きくなります。段階を飛ばさず、順に上げていく進め方が現実的です。
類型1|業務効率化と生産性の向上
手作業の自動化、情報共有の円滑化、二重入力の解消などが該当します。最も着手しやすく、効果も見えやすい領域です。
ただし、ここで止まる企業が非常に多いことも事実です。効率化で生まれた時間を何に使うかまで決めて、初めて次の段階へ進めます。
効率化そのものを最終目的に置かないでください。時間を生み出すことは、次の取り組みに投資するための原資をつくる行為だと捉えるほうが、継続につながります。
類型2|コスト構造の見直し
オンプレミスからクラウドへの移行によるサーバー維持費の削減、紙とハンコの廃止による間接コストの削減などです。
削減額が金額で示せるため、社内の合意を得やすい目的でもあります。投資判断の説明材料としても使いやすくなります。
ただし、削減だけを追い続けると成長につながりません。攻めの投資と組み合わせて設定することが、長期的には重要になります。
類型3|顧客体験の向上
問い合わせ対応の迅速化、顧客に合わせた提案、オンラインでの手続き対応などが含まれます。社内の効率化から、顧客側の変化へ視点が移る段階です。
ここから競合との差がつきやすくなります。内部の改善は真似されやすいものの、顧客との接点の設計は簡単には模倣できません。
類型4|新しい事業や収益源の創出
蓄積したデータを活かした新サービス、既存事業の枠を超えた収益源の開拓などが該当します。最も難易度が高い一方、成果の幅も大きくなります。
いきなりここから始めるのは現実的ではありません。前の段階で社内に知見と余力が蓄積されて初めて、検討できるようになります。
類型5|事業継続性と人材の確保
見落とされがちですが、重要な目的です。属人化の解消、災害時の業務継続、働き方の柔軟化による採用力の向上などが含まれます。
人手不足が深刻な業界では、この目的が最優先になることもあります。売上や利益に直結しなくても、事業を続けるための条件として位置づけられます。
採用力への影響も無視できません。紙とハンコが残る職場と、場所を選ばず働ける職場では、応募者の判断が変わります。
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職種別に見る目的の具体例
全社の目的だけでは、現場は動きません。部門ごとに、自分たちが何を目指すのかへ翻訳する必要があります。
ここでは、部門別の目的の書き方を例として挙げます。自社の言葉に置き換えて使ってください。
経営層|意思決定の速度と精度を上げる
各部門の数値が月末にしか見えない状態から、常に最新の状況を把握できる状態へ移行することが目的になります。
判断のタイミングが早まることの価値は、削減時間より大きくなる場合があります。打てる手の数が変わるためです。
営業|提案の質と量を同時に高める
事務作業を減らして顧客と向き合う時間を増やすこと、過去の提案や対応履歴を組織の資産として活用することが目的になります。
属人化していた営業手法を標準化し、経験の浅い担当者でも一定水準の提案ができる状態を目指すという置き方もあります。
指標としては、商談件数、受注率、1件あたりの準備時間などが使えます。売上だけを追うより、途中の変化が見えて改善しやすくなります。
バックオフィス|定型業務から企画業務へ移す
経費精算、請求処理、問い合わせ対応といった定型業務を減らし、制度設計や業務改善に時間を割ける状態をつくることが目的です。
人員を増やさずに処理能力を上げるという表現でも構いません。人手不足の局面では、こちらのほうが伝わります。
この部門は成果が数値化しやすい領域です。処理件数と所要時間を記録しておけば、削減効果をそのまま金額で示せます。
製造・現場|品質の安定と技能の継承
熟練者の判断に依存していた工程を標準化し、誰が担当しても一定の品質を保てる状態にすることが目的になります。
作業記録をデータとして蓄積できれば、故障が起きてから対応する運用から、兆候を見て手を打つ運用へ移行できます。
現場は変化への抵抗が出やすい領域でもあります。負担が減る実感を先に得られる取り組みから始めると、協力を得やすくなります。
情報システム|守りから攻めへ役割を移す
障害対応や問い合わせ対応に追われる状態から、事業に貢献する企画に時間を割ける状態へ変えることが目的です。
この部門の目的設定は、他部門の取り組みを左右します。現場の依頼をさばくだけの立場に置かれていると、全社の変革は進みません。
AIを含む具体的な活用領域については、DXとAIの違いと関係性|活用事例とAIを使ったDX推進の進め方で詳しく整理しています。
企業規模によって目的の置き方は変わる
同じ目的を掲げても、使えるリソースが違えば実現の道筋は変わります。規模に応じた現実的な設定が必要です。
ここでは、大企業と中小企業それぞれの考え方を整理します。
大企業|部門横断の連携と全社最適
部門ごとに個別最適が進んでおり、データが分断されているケースが多くなります。全社で使える形に統合することが目的になりやすい領域です。
既存システムの刷新も論点になります。老朽化したシステムが足かせとなり、新しい取り組みを阻んでいる場合があります。
一方で、意思決定に時間がかかる点が課題です。小さく試して成果を示し、そこから広げる進め方のほうが現実的になります。
部門ごとに目的を分けて設定することも有効です。全社共通の目的だけでは、それぞれの現場が自分たちの課題として捉えられません。
中小企業|人手不足への対応と属人化の解消
限られた人員で事業を回す必要があるため、効率化と属人化の解消が最優先になります。新規事業の創出を掲げるのは、その先の段階です。
強みは意思決定の速さにあります。何層もの承認を経ずに試せることは、変革を進めるうえで大きな優位性になります。
全社一斉ではなく、1部署1業務から始めてください。成功事例を1つつくれば、社内への展開は一気に進みます。
補助金や助成金が使える場合もあります。初期負担を抑えられるため、早い段階で制度を確認しておく価値があります。
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目的を数値目標に落とし込む考え方
目的を掲げただけでは、達成したかどうかを判断できません。数値に落とし込んで初めて、進捗も成果も見えるようになります。
難しく考える必要はありません。追う数値は3つか4つで十分です。多すぎると集計そのものが負担になり、測定が続かなくなります。
最終目標と中間目標を分ける
売上や利益といった最終的な成果は、すぐには動きません。そこに至る途中の変化を、中間の目標として設定してください。
たとえば顧客体験の向上が目的なら、最終目標は継続率や顧客単価、中間目標は問い合わせへの初回応答時間や解決率といった形になります。
削減時間は金額に換算して示す
業務効率化が目的の場合、削減時間だけでは経営層に伝わりにくいことがあります。人件費単価を掛けて金額に換算すると、投資判断の材料になります。
あわせて、削減した時間の使い道も記録してください。空いた時間が別の雑務で埋まっていれば、成果として認識されません。
測れない目的には代替指標を置く
企業文化の変革のように、直接は測りにくい目的もあります。その場合は、社内アンケートの回答や、新しい取り組みの提案件数といった代替の指標を置きます。
完璧な指標を探すより、変化の方向がわかる数値を置くほうが実用的です。運用しながら見直していけば構いません。
DXの目的を決める5ステップ
目的は思いつきで決めるものではありません。順番を踏むことで、社内で合意を得やすい形になります。
ここでは、実務に沿った5つのステップを示します。
STEP1 経営課題を洗い出す
売上の伸び悩み、人手不足、コスト構造、顧客からの評価など、現在の課題を経営の視点で列挙します。デジタルの話はまだ出しません。
課題が思い浮かばない場合は、3年後に何が困るかを考えてください。現在は回っていても、人員構成や市場の変化で立ち行かなくなる要素があるはずです。
STEP2 ありたい姿を言語化する
課題が解決された状態を、具体的な言葉で書き出します。抽象的な標語ではなく、誰が何をどうしている状態かが想像できる粒度にしてください。
この文章が、現場に説明するときの土台になります。経営会議でしか通じない言葉では、行動につながりません。
STEP3 目的を3つ以内に絞る
洗い出した課題のうち、優先度の高いものを3つ以内に絞ります。多すぎるとリソースが分散し、どれも中途半端に終わります。
絞る基準は、インパクトの大きさと着手のしやすさです。効果が大きくても着手できないものより、確実に進められるものを1つ入れてください。
STEP4 指標と期限を設定する
それぞれの目的に対して、達成できたと判断する基準を数値で決めます。同時に、いつまでに達成するのかも設定します。
指標は、導入数や実施件数にしないでください。削減時間、処理件数、顧客の評価、関連する売上といった、業務や事業の変化を表す数値を選びます。
すぐに測れない目的もあります。その場合は、中間指標を置いて進捗を確認できるようにしてください。
STEP5 社内に共有して合意を取る
決めた目的を、経営層と各部門で共有します。特に、なぜこの3つなのかという理由を説明できる状態にしておいてください。
反対意見が出た場合は、その場で議論してください。合意のないまま進めると、後で協力を得られません。
共有は一度で終わらせないでください。人事異動や新しいメンバーの参加のたびに、目的を伝える機会を設ける必要があります。
目的を形骸化させないための3つの工夫
決めた目的が、1年後には誰も覚えていない。これもよくある状態です。掲げるだけでは機能しません。
ここでは、実務で効く3つの工夫を挙げます。
議論が手段の話に流れたら目的に戻す
会議の議題が、どのツールを入れるか、どのベンダーに頼むかという話に終始する場面があります。そのたびに、何のためかを確認してください。
会議の冒頭に目的を読み上げる運用でも効果があります。形式的に見えますが、議論の方向を保つうえでは有効な手段です。
評価指標を導入数にしない
取り組み件数やツールの導入数を報告指標にすると、数を増やすこと自体が目標になります。成果につながらない施策が積み上がる原因です。
見るべきは、業務や事業がどう変わったかです。削減時間、処理件数、顧客からの評価、関連する売上といった数値で追ってください。
報告の場も決めておいてください。四半期に一度、経営会議で数値を共有する場があるだけで、取り組みは自然に継続します。
測れる状態にしておくこと自体が、次の投資判断を可能にします。
半年に一度は目的を見直す
市場環境も自社の状況も変わります。設定した目的が現在の課題と合っているかを、定期的に確認してください。
見直しは、変更を前提とするものではありません。変える必要がないと確認できることにも価値があります。
あわせて、達成できた目的は明確に区切ってください。次の段階へ進むという宣言がないと、取り組みが惰性で続きます。
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まとめ|経営課題を先に置き、3つ以内に絞って数値で追う
DXの目的は、変化に対応できる企業へ生まれ変わり、競争上の優位性を確立することにあります。業務効率化やコスト削減はその過程で得られる成果であり、到達点ではありません。
目的が曖昧なまま進めると、ツール導入が目的化し、成果を評価できず、現場も動かないという3つの問題が起こります。いずれも、着手前に目的を明文化すれば防げるものです。
整理する際は、効率化、コスト、顧客体験、新規事業、事業継続という5つの類型から自社に当てはまるものを選んでください。そのうえで部門ごとの言葉に翻訳します。
決め方は、経営課題の洗い出し、ありたい姿の言語化、3つ以内への絞り込み、指標と期限の設定、社内での合意という5ステップです。指標を導入数にしないことが、形骸化を防ぐ最大のポイントになります。
他社がどのような順番でDXを進めたのかは、ネクストスケールの導入事例でご覧いただけます。
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この記事の監修者
株式会社ネクストスケール 代表取締役




