要件定義書のサンプル・記入例 項目別の書き方とテンプレートの使い方、作成手順を解説

要件定義書のサンプル・記入例 項目別の書き方とテンプレートの使い方、作成手順を解説

「要件定義書を作ることになったが、何をどう書けばよいのか具体的なイメージが湧かない」「テンプレートは手に入れたが、各項目に何を書くべきかわからない」という声は、初めてシステム開発を発注する担当者からよく聞かれます。要件定義書は決まった様式がない文書であり、実際の記入例を見ることが理解への近道です。

この記事では、架空のプロジェクトを題材にした要件定義書のサンプルを項目ごとに掲載し、それぞれの書き方のコツ、テンプレートを自社用にカスタマイズする方法、サンプルを使う際の注意点までを整理しました。まずは、この記事の要点を表で確認してください。

確認したいポイント結論詳細
要件定義書のサンプルはどう使う?型を学ぶために使い、中身は自社で作る項目の抜け漏れ防止と書き方の把握に活用し、文章や数値はそのまま流用せず自社の業務に合わせて書き換える
サンプルには何が書かれている?目的・現状・範囲・機能・非機能・検収の10項目文書概要、プロジェクト概要、現状と課題、スコープ、機能要件、非機能要件、構成、データ・画面、移行・運用、制約と検収
各項目を書くコツは?数値化・例外の洗い出し・課題との対応付けゴールは数値で、業務フローは例外まで、機能は課題と紐づけて優先度を付け、非機能は自社実態に合わせる
テンプレートはどう調整する?プロジェクトの種類と規模で項目を増減新規・改修・SaaS導入・AI開発で重点を変え、小規模でも目的・範囲・機能・非機能・検収の5点は省かない

この記事でわかること

  • 要件定義書のサンプルを活用する前に押さえておきたい基本と、公的機関が公開しているテンプレート
  • 架空プロジェクトを題材にした、10項目すべての具体的な記入例
  • 目的・業務フロー・機能要件・非機能要件・検収条件など、項目別の書き方のコツ
  • 新規開発・既存改修・SaaS導入・AI開発など、プロジェクトの種類に応じたカスタマイズ方法
  • サンプルやテンプレートを使う際に陥りやすい失敗と対策
目次

要件定義書のサンプルを見る前に押さえておきたい基本

要件定義書のサンプルは、そのまま真似すれば完成するものではありません。各項目が何のために存在し、どのような判断を記録する場所なのかを理解したうえで参照することで、初めて自社のプロジェクトに役立ちます。ここでは、サンプルを活用する前提となる基本を整理します。

要件定義書とは

要件定義書とは、開発するシステムが「何を実現し、どのような条件を満たすべきか」を、発注者と開発者が合意するために明文化した文書です。設計・開発・テスト・検収はすべてこの文書を基準に進められ、契約の根拠にもなります。

要件定義書の役割や関連文書との違い、記載項目の全体像については、システム要件定義書の書き方と記載項目の記事で詳しく解説しています。本記事では、実際の記入例に絞って解説を進めます。

サンプルの正しい活用方法

サンプルやテンプレートは、項目の抜け漏れを防ぎ、書き方のイメージをつかむために使うものです。一方で、サンプルの文章をそのまま流用すると、自社の業務に合わない要件が紛れ込んだり、本来書くべき判断が抜けたりします。

サンプルを見る際は、「この項目はなぜ必要なのか」「自社の場合は何を書くべきか」を考えながら読むことが大切です。サンプルは「型」を学ぶためのものであり、中身は自社のプロジェクトから作るという前提を忘れないようにしましょう。

公的機関が公開しているサンプル・テンプレート

要件定義書の様式や記入例は、公的機関からも公開されています。デジタル庁のデジタル社会推進標準ガイドラインには、政府情報システムの整備に関する標準ガイドラインと実践ガイドブックが含まれており、要件定義書のテンプレートや、業務要件・機能要件・非機能要件の考え方が体系的に整理されています。政府調達向けの資料ですが、民間のシステム開発でも十分参考になります。

(出典:デジタル庁「デジタル社会推進標準ガイドライン」 https://www.digital.go.jp/resources/standard_guidelines)

このほか、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「ユーザのための要件定義ガイド」や「非機能要求グレード」、各省庁が公開している調達仕様書(要件定義書)も実物のサンプルとして参考になります。公的機関の資料は網羅性が高いため、項目の抜け漏れチェックに活用するとよいでしょう。ただし分量が多いため、自社の規模に合わせて取捨選択することが前提です。

【サンプル】問い合わせ対応支援システムの要件定義書

ここからは、架空のプロジェクトを題材にした要件定義書のサンプルを、項目ごとに紹介します。題材は、中堅のBtoB企業が顧客からの問い合わせ対応を効率化するために導入する「問い合わせ対応支援システム」です。実際の要件定義書はこれより詳細になりますが、各項目に何を書くかのイメージをつかんでください。

サンプルの前提となる架空プロジェクト

サンプルの前提は次のとおりです。従業員120名の産業機械部品の販売会社で、営業事務5名がメールと電話で月間約1,500件の顧客問い合わせに対応しています。問い合わせ内容は納期確認・在庫確認・見積依頼・仕様確認が中心で、対応履歴はメールと個人のメモに分散しており、回答の遅れや担当者による回答のばらつきが課題になっています。

このプロジェクトでは、問い合わせを一元管理し、過去の対応履歴やFAQをもとにAIが回答案を作成することで、対応時間の短縮と回答品質の均一化を目指します。以下、この前提に基づいた記入例を示します。

1. 文書概要・用語定義(記入例)

  • 文書の目的:本書は、問い合わせ対応支援システム(以下「本システム」)の開発にあたり、発注者と開発者の間で実現する要件を合意するための文書である
  • 対象読者:営業部門責任者、営業事務担当者、情報システム部門、開発会社のプロジェクト責任者および設計担当者
  • 文書の位置づけ:本書は基本設計・詳細設計・テスト・検収の基準となる。変更は第10章の変更管理手順に従う
  • 用語定義:「問い合わせ」とは、顧客からメール・電話・Webフォームで受け付けた質問・依頼を指す。「案件」とは、1件の問い合わせを受付から完了まで管理する単位を指す。「回答案」とは、AIが過去の対応履歴・FAQをもとに生成した回答の下書きを指す

文書概要は簡潔で構いませんが、用語定義は関係者間の解釈のずれを防ぐ重要な項目です。「案件」「顧客」「完了」など、部門によって意味が異なりうる言葉ほど丁寧に定義します。

2. プロジェクト概要(記入例)

  • 背景:顧客からの問い合わせが月間約1,500件に達し、営業事務5名で対応しているが、対応履歴がメールと個人メモに分散しているため、回答に平均2営業日を要し、担当者によって回答内容にばらつきがある
  • 目的:問い合わせの一元管理と回答支援により、顧客への回答を迅速化し、回答品質を均一化する。営業事務の対応工数を削減し、見積作成などの付加価値業務に時間を振り向ける
  • ゴール(数値目標):初回回答までの平均時間を2営業日から4時間以内に短縮する。営業事務の問い合わせ対応工数を30%削減する。顧客満足度調査における「回答の速さ」の評価を5段階中3.2から4.0以上に引き上げる
  • 体制:発注側は営業部長(プロジェクト責任者)、営業事務リーダー(業務要件担当)、情報システム課長(技術要件・運用担当)。開発側はプロジェクトマネージャー1名、設計・開発担当3名
  • スケジュール:要件定義2か月、設計・開発5か月、テスト・移行2か月。運用開始は翌年度4月を目標とする
  • 予算:初期開発費用の上限は1,200万円。運用費用は年間200万円以内を目安とする

ゴールを数値で示すことで、要件の優先順位付けや、運用開始後の効果測定の基準になります。「なぜ作るのか」と「何が達成できれば成功か」をこの章で明確にすることが、以降のすべての判断の土台になります。

3. 現状の業務と課題(記入例)

現状の業務フローは次のとおりです。

  • 受付:顧客からメール(約70%)、電話(約25%)、Webフォーム(約5%)で問い合わせが届く。メールは営業事務の共有アドレスに届き、担当者が手動で振り分ける
  • 調査:担当者が基幹システムで在庫・納期を確認し、仕様に関する質問は営業担当者や技術部門に確認する
  • 回答:担当者がメールで回答する。電話の場合は折り返し連絡する
  • 記録:対応内容は各担当者がメールの送信履歴やExcelに個別に記録している

課題は次のとおりです。

  • 課題1:問い合わせの担当割り当てが手動のため、対応漏れや重複対応が月に数件発生している
  • 課題2:過去の類似問い合わせを検索できず、同じ内容の調査を繰り返している
  • 課題3:担当者の経験によって回答内容の詳しさや表現が異なり、顧客から「前回と説明が違う」という指摘を受けることがある
  • 課題4:対応状況を管理者が把握できず、遅延の発見が遅れる

現状の記述は、実際にヒアリングした事実を数値とともに書きます。課題には番号を付け、後の機能要件と対応付けられるようにしておくと、「この機能はどの課題を解決するのか」が明確になります。

4. システム化の範囲と新しい業務フロー(記入例)

  • 対象業務:問い合わせの受付・担当割り当て・回答案の作成・回答・記録・進捗管理
  • 対象外業務:見積書の作成(既存の見積システムで継続)、受注処理(基幹システムで継続)、電話の自動応答(本フェーズでは対象外とし、次フェーズで検討)
  • 新業務フロー:メール・Webフォームの問い合わせは本システムに自動で取り込み、内容に応じて担当者に自動で割り当てる。電話の問い合わせは担当者が本システムに手動で登録する。担当者は本システム上でAIが生成した回答案を確認・修正し、本システムから顧客へメールで回答する。対応履歴は本システムに自動で記録され、管理者は進捗を一覧で確認する

対象外の業務を明記することで、開発途中の「これも含まれると思っていた」というずれを防げます。「次フェーズで検討」と書いておくと、今回対象外とした要望を出した部門の納得も得やすくなります。

5. 機能要件(記入例)

機能一覧は次のとおりです。各機能に要件ID・優先度・対応する課題番号を付けています。

  • F-001 問い合わせ取り込み:共有メールアドレスとWebフォームの問い合わせを自動で本システムに登録する(優先度:必須/対応課題:1)
  • F-002 担当者自動割り当て:問い合わせの内容(納期・在庫・見積・仕様)を分類し、あらかじめ設定したルールに基づいて担当者を割り当てる(必須/課題1)
  • F-003 類似問い合わせ検索:過去の問い合わせと回答を、キーワードおよび内容の類似度で検索する(必須/課題2)
  • F-004 AI回答案生成:過去の対応履歴・FAQ・製品情報をもとに、問い合わせに対する回答案を生成し、担当者に提示する(必須/課題2・3)
  • F-005 回答送信:担当者が確認・修正した回答を、本システムから顧客へメールで送信し、履歴に記録する(必須/課題3)
  • F-006 進捗管理ダッシュボード:案件の状況(未着手・対応中・回答済み・完了)と経過時間を一覧表示し、期限超過を通知する(必須/課題4)
  • F-007 FAQ管理:よくある問い合わせと回答をFAQとして登録・更新する(重要/課題2・3)
  • F-008 対応レポート:月次の問い合わせ件数・分類別件数・平均回答時間を集計して出力する(重要/課題4)
  • F-009 顧客向けFAQサイト連携:登録したFAQを顧客向けWebサイトに公開する(あれば望ましい/次フェーズ候補)

個別の機能の詳細は、次のような形式で記述します。F-004を例にします。

  • 要件ID:F-004
  • 機能名:AI回答案生成
  • 概要:新規登録された問い合わせに対し、過去の対応履歴・FAQ・製品情報を参照して回答案を自動生成し、担当者の画面に表示する
  • 入力:問い合わせ本文、顧客情報、製品情報、過去の対応履歴、FAQ
  • 処理:問い合わせ内容を分類し、関連する過去の回答とFAQを検索する。検索結果をもとに回答案を生成し、参照した情報源を併せて表示する。回答案の生成は問い合わせ登録から1分以内に完了する
  • 出力:回答案(文章)、参照した情報源の一覧、回答案の確信度(高・中・低)
  • 優先度:必須
  • 制約:回答案はそのまま顧客に送信せず、必ず担当者が確認・修正してから送信する。在庫数・納期などの数値は基幹システムの最新データを参照する
  • 対応課題:課題2、課題3

機能要件は、入力・処理・出力を分けて書き、制約や前提も明記することで、開発会社が設計に進める粒度になります。AIを含む機能では、「人が確認する」といった業務上のルールも要件に含めておくことが重要です。

6. 非機能要件(記入例)

  • 性能:同時利用者数10名で、画面表示は2秒以内。類似問い合わせ検索は3秒以内。AI回答案生成は1分以内
  • 可用性:稼働時間は平日8時〜19時。計画停止は月1回まで、土日の深夜帯に実施する。年間稼働率99%以上
  • 信頼性:障害発生時は4時間以内に復旧する。データは日次でバックアップし、30日分を保持する
  • セキュリティ:社内ネットワークからのアクセスに限定する。IDとパスワードに加え多要素認証を必須とする。顧客情報へのアクセス権限を役割別に設定し、操作ログを1年間保存する。AIの回答案生成に利用するサービスは、入力データがサービス提供者側の学習に利用されないものを採用する
  • 拡張性:3年後に問い合わせ件数が月間3,000件に増加しても性能要件を満たす。将来のチャット・電話連携の追加を妨げない構成とする
  • 運用・保守性:管理者が自身でFAQ・担当割り当てルールを変更できる。障害時の連絡先と対応時間を運用手順書に定める
  • ユーザビリティ:主要ブラウザの最新版に対応する。担当者が2時間の研修で基本操作を習得できる

非機能要件は「速い」「安全」ではなく数値で書きます。AIを利用する場合は、データの取り扱いに関する要件を必ず含めることが、後のトラブルを防ぐポイントです。

7. システム構成・外部連携(記入例)

  • 構成方針:クラウド上に構築し、自社でサーバーを保有しない。利用するクラウドサービスは国内リージョンとする
  • 外部連携1:基幹システムとの連携。在庫数・納期情報を1時間ごとに取得する(連携方式は設計段階で開発会社が提案する)
  • 外部連携2:共有メールアドレスとの連携。受信メールの自動取り込みと、本システムからの送信を実現する
  • 外部連携3:AIサービスとの連携。回答案生成に外部のAIサービスを利用する。利用するサービスは非機能要件のセキュリティ要件を満たすものとする
  • 制約:既存の社内認証基盤と連携すること。情報システム部門が定めるクラウド利用規程に準拠すること

技術的な選定は開発会社の提案に委ねる部分と、自社の規程や既存環境から指定すべき部分を分けて書きます。「自社が譲れない制約」を明示することが発注側の役割です。

8. データ・画面要件(記入例)

  • 主要データ:案件(案件ID、受付日時、受付経路、顧客ID、分類、本文、担当者、状態、回答日時、回答本文)、顧客(顧客ID、会社名、担当者名、メールアドレス、電話番号)、FAQ(FAQ ID、質問、回答、分類、更新日)
  • データ保持:案件データは5年間保持し、その後削除する。顧客データは基幹システムを正とし、本システムは参照のみとする
  • 画面一覧:ログイン画面、案件一覧画面、案件詳細・回答画面、類似検索画面、FAQ管理画面、ダッシュボード画面、レポート画面、設定画面(担当割り当てルール、ユーザー管理)
  • 画面の共通要件:一覧画面は状態・担当者・期間で絞り込みができる。詳細画面は顧客情報・過去の問い合わせ履歴を同一画面で参照できる

データ項目と画面一覧は、設計段階で細かく決める部分も多いため、要件定義では業務上必要な項目と画面の目的を漏れなく挙げることに重点を置きます。

9. 移行・運用要件(記入例)

  • データ移行:過去2年分の問い合わせメール(約36,000件)を本システムに取り込み、類似検索とAI回答案生成の参照データとする。移行対象の選定と整形は発注側が行い、取り込み処理は開発側が行う
  • 並行運用:運用開始後1か月は、従来のメール運用と並行して本システムを利用し、問題がなければ本システムに一本化する
  • 運用体制:システム管理者は情報システム課が担当し、FAQと割り当てルールの管理は営業事務リーダーが担当する。開発会社は運用開始後1年間、平日9時〜18時の問い合わせ対応と障害対応を行う
  • 教育:運用開始前に営業事務全員を対象とした操作研修(2時間)を実施し、操作マニュアルを整備する
  • AIの精度管理:回答案が採用された割合と修正された割合を月次で確認し、FAQの追加や参照データの見直しを行う

移行と運用は開発完了後に考えがちですが、要件定義の段階で決めておかないと、稼働直前に体制が整わず遅延の原因になります。AIを含むシステムでは、精度を維持するための運用も要件として書いておくことが重要です。

10. 前提条件・制約・変更管理・検収条件(記入例)

  • 前提条件:基幹システムから在庫・納期情報を取得するための連携仕様が、設計開始までに基幹システムのベンダーから提供されること
  • 制約事項:個人情報保護方針および社内の情報セキュリティ規程に準拠すること。開発費用の上限は1,200万円とする
  • 変更管理:要件の変更は、発注側の担当者が変更申請書を提出し、開発側が影響(費用・納期・品質)を評価したうえで、発注側のプロジェクト責任者が承認する。承認された変更は本書の改訂として記録する
  • 検収条件:本書の必須要件がすべて実装され、発注側が実施する受入テストにおいて重大な不具合がないこと。非機能要件のうち性能・セキュリティは、開発側が実施した測定結果を発注側が確認して判定する

検収条件を要件定義の段階で決めておくことで、「完成したかどうか」の判断で揉めることを防げます。変更管理と検収条件は、発注側を守るための項目として必ず記載しましょう。

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サンプルの各項目を書くときのコツ

サンプルを自社のプロジェクトに置き換える際、特につまずきやすいのが、目的とゴール、業務フロー、機能要件、非機能要件、検収条件の5つです。ここでは、それぞれの項目を書くときのコツを解説します。

目的とゴールは経営課題から逆算して数値化する

「業務を効率化する」「顧客満足度を高める」といった目的だけでは、要件の優先順位を判断できません。サンプルのように「初回回答までの時間を2営業日から4時間以内に」と数値化することで、どの機能が目的への貢献度が高いかを比較できます。

数値化が難しい場合は、「何が起きたら成功と言えるか」を関係者に問いかけ、その答えを測定可能な形に言い換えます。ゴールが明確であれば、要望が膨らんだときに立ち返る基準になるため、この項目には時間をかける価値があります。

業務フローは「例外」まで書き出す

現状の業務フローを書く際は、通常の流れだけでなく、例外的なケースも洗い出します。サンプルの題材であれば、「顧客が電話とメールの両方で同じ問い合わせをしてきた場合」「担当者が不在の場合」「回答に技術部門の確認が必要な場合」などです。

例外の処理を要件に含めないと、運用開始後に「この場合はどうするのか」という問題が頻発します。現場の担当者に「困ったケース」を聞くことが、例外を発見する最も確実な方法です。

機能要件は課題と対応付けて優先度を決める

サンプルでは、各機能に対応する課題の番号を付けています。こうすることで、「この機能はなぜ必要なのか」を説明でき、どの課題にも対応しない機能は優先度を下げる判断ができます。

優先度は「必須」「重要」「あれば望ましい」の3段階程度が扱いやすく、予算や期間が不足した場合には「あれば望ましい」から順に削ります。機能を課題と結び付けることで、要件の取捨選択に根拠が生まれます。

非機能要件は自社の業務実態に合わせて水準を決める

非機能要件は、サンプルの数値をそのまま使うと、自社の実態に合わない過剰な要件や不足した要件になります。たとえば、稼働時間は自社の営業時間、性能は実際の利用者数とデータ量、可用性はシステムが止まったときの業務への影響から決めます。

水準を高くすれば費用も上がります。「本当にその水準が必要か」を業務への影響から判断し、過剰にも不足にもならない要件にすることが、費用対効果の高いシステムにつながります。

検収条件は「何をもって完成とするか」を具体的に書く

検収条件が曖昧だと、開発会社は「要件どおり作った」と主張し、発注側は「思っていたものと違う」と感じる、という対立が起こります。サンプルのように、必須要件の実装と受入テストの結果、非機能要件の測定方法を具体的に定めておきましょう。

受入テストのシナリオを要件定義の段階で概要だけでも決めておくと、開発側もテストを意識した設計ができます。検収条件は、発注側と開発側の双方を守るルールとして合意しておくことが大切です。

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テンプレートを自社のプロジェクトに合わせてカスタマイズする方法

サンプルやテンプレートは、プロジェクトの種類や規模によって必要な項目が変わります。ここでは、プロジェクトの種類別・規模別のカスタマイズの考え方と、作成に使うツールの選び方を解説します。

プロジェクトの種類別に重点項目を変える

新規開発、既存システムの改修、SaaSの導入、AI開発では、要件定義で重点を置く項目が異なります。

  • 新規開発:業務フロー・機能要件・非機能要件をすべて詳細に定義する。サンプルの構成をそのまま活用できる
  • 既存システムの改修:現状のシステム仕様と、変更する部分・変更しない部分の切り分けを明確にする。既存機能への影響範囲の記載を追加する
  • SaaSの導入:自社で開発する部分は少ないため、標準機能で対応できる業務と、設定やカスタマイズが必要な業務の切り分け(Fit&Gap)を中心に記載する
  • AI開発:精度の目標と評価指標、学習データの要件、PoC(概念実証)の計画、運用開始後の精度管理・再学習の要件を追加する

AI開発では、最初にすべてを確定させるのではなく、PoCの結果を見て要件を見直す前提を要件定義書に書いておくことが重要です。「検証してから決める部分」を明示することで、AI特有の不確実性に対応できます。

AI開発における要件定義の考え方や、開発費用の相場については、AI受託開発の費用相場と開発会社の選び方の記事でも解説しています。

規模に応じて項目を増減する

小規模なプロジェクト(開発費用数百万円、機能が10個程度)であれば、サンプルの10項目を各1〜2ページにまとめた十数ページの文書で十分です。一方、基幹システムの刷新など大規模なプロジェクトでは、業務要件・機能要件・非機能要件をそれぞれ別冊にするなど、文書を分割して管理します。

重要なのは分量ではなく、後工程で必要な判断がすべて書かれているかです。小規模でも「目的・スコープ・機能・非機能・検収条件」の5点は省略しないことが、規模を問わず共通する原則です。

ExcelとWordのどちらで作るか

要件定義書はWordで文章を中心にまとめる方法と、Excelで一覧表を中心にまとめる方法があります。背景・目的・業務フローなど説明が必要な部分はWordが向いており、機能一覧・非機能要件一覧・データ項目一覧など表形式で管理する部分はExcelが向いています。

実務では、本文をWordで作成し、一覧表はExcelで作成して添付する組み合わせが一般的です。要件IDで本文と一覧表を対応付けることで、変更時の追跡もしやすくなります。近年はクラウド上の文書管理ツールで関係者が同時に編集・コメントできる形式も増えています。

サンプルやテンプレートを使う際の注意点

サンプルやテンプレートは便利な反面、使い方を誤ると「体裁は整っているが中身がない要件定義書」ができあがります。ここでは、サンプル活用でよくある4つの失敗と、その対策を解説します。

項目を埋めただけで完成したと思い込む

テンプレートの項目をすべて埋めると、要件定義書が完成したように見えます。しかし、各項目に書かれた内容が自社の業務に照らして正しいか、関係者が合意しているかは、項目を埋めただけでは保証されません。

対策は、完成した文書を業務部門・情報システム部門・開発会社のそれぞれにレビューしてもらい、「この内容で業務が回るか」「この内容で設計に進めるか」を確認することです。要件定義書は、書き終えたときではなく、関係者が承認したときに完成すると考えましょう。

サンプルの文章や数値をそのまま流用する

サンプルの非機能要件の数値や、機能要件の文章をそのまま使うと、自社に不要な要件や、自社の実態と異なる要件が紛れ込みます。特に非機能要件は、水準によって費用が大きく変わるため、根拠のない数値を書くと過剰な投資につながります。

対策は、サンプルの各項目について「自社の場合はどうか」を必ず問い直し、根拠とともに書き換えることです。サンプルは「何を書くか」の参考であり、「何と書くか」は自社で決めるという姿勢が重要です。

発注側の判断が抜け落ちる

テンプレートを開発会社に渡して記入を依頼すると、技術的な項目は充実する一方で、業務上の判断(何を対象にし、何を対象外にするか、どの水準を求めるか)が曖昧なまま残ることがあります。

要件を決める責任は発注側にあります。業務部門の責任者が目的・スコープ・優先度・検収条件を自ら判断し、開発会社は実現方法と技術要件で支援するという役割分担を意識しましょう。社内に知見が不足している場合は、要件定義の段階から発注側に立って伴走してくれる会社に相談するのも一つの方法です。

作成後に更新されず、実態と乖離する

要件定義書は一度作れば終わりではなく、変更管理の手順に従って更新し続ける文書です。更新が止まると、設計書やテスト仕様書との整合性が失われ、検収の基準としても機能しなくなります。

対策は、変更が発生するたびに改訂履歴を残し、常に最新版がどれかを明確にすることです。要件定義書を「生きた文書」として管理することが、プロジェクト全体の品質を守ることにつながります。

システム開発やAI活用の進め方については、NextScaleのコラム一覧でも関連記事を公開しています。

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まとめ

要件定義書に決まった様式はありませんが、記載すべき項目はある程度共通しており、サンプルを参照することで「何をどのように書くか」のイメージをつかめます。本記事では、問い合わせ対応支援システムを題材に、文書概要から検収条件までの10項目の記入例を紹介しました。

サンプルを活用する際は、目的とゴールを数値化する、業務フローは例外まで書く、機能要件は課題と対応付けて優先度を決める、非機能要件は自社の実態に合わせる、検収条件を具体的に定めることがポイントです。サンプルの文章や数値をそのまま流用するのではなく、「自社の場合はどうか」を問い直しながら書き換えてください。

プロジェクトの種類や規模によって重点項目は変わり、AI開発では精度目標や学習データ、PoCの計画といった項目を追加する必要があります。要件定義は発注側が主体となる工程ですが、初めての場合や社内に知見が不足している場合は、要件定義の段階から伴走してくれる開発会社に早めに相談し、実現可能な要件を一緒に固めていくことをおすすめします。

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この記事の監修者

石丸真平

石丸真平

株式会社ネクストスケール 代表取締役

株式会社ネクストスケールの代表。「AI時代に勝てる企業組織を共に創る」を掲げ、法人向けの生成AI研修とAX(AIによる企業変革)の伴走支援を手がける。経営課題の整理からAI活用領域の設計、ツール選定、業務への組み込み、社内定着、ROI測定までを一気通貫で支援。単なる効率化ではなく、経営戦略としてAIを活かす視点での支援を得意とする。Xでは「本当に仕事で使えるAI」をテーマに、実務で使えるノウハウを発信している。
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