要件定義書のテンプレート そのまま使える構成・記入ガイドとExcel・Word別の使い方、カスタマイズ方法

要件定義書のテンプレート そのまま使える構成・記入ガイドとExcel・Word別の使い方、カスタマイズ方法

「要件定義書を作ることになったが、ゼロから構成を考えるのは難しい」「ダウンロードしたテンプレートの項目に何を書けばよいかわからない」という悩みは、システム開発を発注する企業の担当者や、初めて要件定義を担当するエンジニアに共通しています。要件定義書には決まった様式がないため、信頼できる型を持っておくことが作成の近道です。

この記事では、そのままコピーして使える要件定義書のテンプレート(章立て・記入欄・記入ガイド)を掲載し、非機能要件のチェック項目、プロジェクトの種類別のカスタマイズ方法、Excel・Word・Markdownなど形式の選び方、活用時のチェックリストまでを解説します。まずは、この記事の要点を表で確認してください。

確認したいポイント結論詳細
テンプレートはどう使えばよい?型として使い、中身と取捨選択は自社で決める抜け漏れ防止と分担作成に効果がある一方、記入例の流用は禁物。規模や種類に応じて章を増減する
テンプレートの構成は?文書概要から検収条件までの10章構成プロジェクト概要、現状と課題、範囲、機能要件、非機能要件、構成・技術、データ、移行・運用、前提・変更管理・検収
プロジェクト別にどう変える?小規模・SaaS・AI・アジャイルで章を調整小規模は5章に圧縮、SaaSは適合確認型、AI開発は精度・データ・PoCの章を追加、アジャイルは事前確定と反復詳細化を分ける
完成の基準は?チェックリストを満たし関係者が承認した状態数値化されたゴール、対象外の明記、要件IDと優先度、数値化された非機能、検収条件、曖昧語の排除、各部門の承認

この記事でわかること

  • 要件定義書のテンプレートを使う効果と、使う前に押さえておきたい前提
  • そのまま使える10章構成のテンプレートと、各章の記入欄・記入ガイド
  • 公的機関の枠組みに沿った非機能要件のチェック項目
  • 小規模開発・SaaS導入・AI開発・アジャイル開発それぞれに合わせたカスタマイズ方法
  • Excel・Word・Markdownなど形式の選び方と、テンプレート活用時のチェックリスト
目次

要件定義書のテンプレートを使う前に押さえておきたいこと

テンプレートは、要件定義書の作成を大幅に効率化しますが、使い方を誤ると「項目は埋まっているが中身がない文書」になりがちです。ここでは、要件定義書の役割を簡潔に確認したうえで、テンプレートを使う効果と限界を整理します。

要件定義書の役割

要件定義書とは、開発するシステムが「何を実現し、どのような条件を満たすべきか」を、発注者と開発者が合意するために明文化した文書です。設計・開発・テスト・検収はすべてこの文書を基準に進められ、契約上の根拠にもなります。

要件定義書の役割、要求定義書やRFPとの違い、作成手順については、システム要件定義書の書き方と記載項目の記事で詳しく解説しています。本記事では、テンプレートの提供と使い方に絞って解説を進めます。

テンプレートを使う効果

テンプレートを使う最大の効果は、記載項目の抜け漏れを防げることです。要件定義でよくある失敗は、機能要件は詳しく書いたのに非機能要件や移行要件が抜けていた、対象外の範囲を明記していなかった、というものです。型があれば、こうした抜けに気づきやすくなります。

また、章立てと記入欄が決まっていれば、関係者へのヒアリング内容をどこに書くかが明確になり、複数人で分担して作成することも容易になります。書くべきことを「思い出す」のではなく「埋める」作業に変えられることが、テンプレートの価値です。

テンプレートの限界

一方で、テンプレートは「何を書くか」を示すだけで、「何と書くか」は教えてくれません。各項目の内容は、自社の業務や課題、関係者との合意から作る必要があります。テンプレートの記入例や他社の文章をそのまま流用すると、自社の実態に合わない要件が紛れ込みます。

また、プロジェクトの規模や種類によって必要な章は異なるため、テンプレートを機械的に適用するのではなく、不要な章を削り、必要な章を追加する判断が求められます。テンプレートは「型」であり、中身と取捨選択は自社で決めるという前提で活用してください。

【テンプレート】要件定義書の標準構成と記入ガイド

ここからは、そのままコピーして使える要件定義書のテンプレートを掲載します。10章構成で、各章に「記入欄」と「記入ガイド」を示しています。記入欄の項目を見出しとして文書に転記し、記入ガイドを参考に内容を埋めていってください。

第1章 文書概要

記入欄は次のとおりです。

  • 1.1 文書の目的
  • 1.2 対象読者
  • 1.3 文書の位置づけ(関連文書との関係、承認後の扱い)
  • 1.4 用語定義(用語/意味/備考)
  • 1.5 改訂履歴(版数/日付/変更内容/変更者/承認者)

記入ガイド:文書の目的は「本書は○○システムの開発にあたり、発注者と開発者の間で実現する要件を合意するための文書である」のように、1〜2文で書きます。用語定義は、部門によって意味が異なりうる言葉(案件、顧客、完了など)を優先して定義すると、後の認識のずれを防げます。改訂履歴は初版から必ず残しましょう。

第2章 プロジェクト概要

記入欄は次のとおりです。

  • 2.1 背景(現在の状況と、システム化を検討するに至った経緯)
  • 2.2 目的(システム化によって実現したいこと)
  • 2.3 ゴール(数値で測定できる目標/測定方法/達成時期)
  • 2.4 体制(発注側の責任者・担当者と役割、開発側の責任者・担当者と役割、意思決定の方法)
  • 2.5 スケジュール(要件定義・設計・開発・テスト・移行・運用開始の各マイルストーン)
  • 2.6 予算(初期費用の上限、運用費用の目安)

記入ガイド:背景は事実を数値とともに書き、目的は経営上の課題と結び付けます。ゴールは「処理時間を○分から○分に短縮」「対応件数を○%削減」のように、達成したかどうかを後から判定できる形で書くことが重要です。体制では、発注側の担当者がどの程度の時間を割けるかも明記しておくと、進行の遅れを防げます。

第3章 現状の業務と課題

記入欄は次のとおりです。

  • 3.1 対象業務の概要(業務名/担当部門/担当者数/処理件数)
  • 3.2 現状の業務フロー(図または手順の記述)
  • 3.3 現状で使用しているシステム・ツール
  • 3.4 課題一覧(課題番号/課題の内容/発生頻度・影響/原因)

記入ガイド:業務フローは、実際に作業している担当者へのヒアリングをもとに、通常の流れと例外的な流れの両方を書きます。課題には番号を付け、後の機能要件と対応付けられるようにしておくと、「この機能はどの課題を解決するのか」が明確になります。

第4章 システム化の範囲

記入欄は次のとおりです。

  • 4.1 対象業務(システム化する業務の一覧)
  • 4.2 対象外業務(システム化しない業務と、その理由、将来の検討予定)
  • 4.3 システム導入後の業務フロー(図または手順の記述)
  • 4.4 利用者(利用者の区分/人数/利用場所・端末)
  • 4.5 他システムとの関係(連携するシステムの一覧と連携の概要)

記入ガイド:対象外業務の明記は、追加要望による費用と納期の膨張を防ぐために欠かせません。「次フェーズで検討」と書いておくと、要望を出した部門の納得も得やすくなります。「やらないこと」を決めることが「やること」を守るという意識で記入してください。

第5章 機能要件

記入欄は次のとおりです。

  • 5.1 機能一覧(要件ID/機能名/概要/優先度/対応する課題番号)
  • 5.2 機能詳細(要件IDごとに:機能名/概要/入力/処理/出力/制約・前提/優先度/対応課題)
  • 5.3 画面一覧(画面名/概要/利用者)
  • 5.4 帳票一覧(帳票名/概要/出力形式/出力タイミング)

記入ガイド:優先度は「必須」「重要」「あれば望ましい」の3段階が扱いやすく、予算や期間が不足した場合の取捨選択の基準になります。機能詳細は、入力・処理・出力を分けて書き、業務上の制約(人が確認してから送信する、など)も明記することで、設計に進める粒度になります。要件IDは「F-001」のように体系的に付け、設計書・テスト仕様書との対応付けに使います。

第6章 非機能要件

記入欄は次のとおりです。

  • 6.1 可用性(稼働時間/計画停止/目標稼働率/障害時の復旧目標)
  • 6.2 性能・拡張性(同時利用者数/応答時間/処理件数/将来の増加への対応)
  • 6.3 運用・保守性(バックアップ/監視/障害対応体制/メンテナンス時間)
  • 6.4 移行性(データ移行の範囲と方法/並行運用の有無)
  • 6.5 セキュリティ(認証/アクセス権限/暗号化/ログ/準拠する規程・法令)
  • 6.6 システム環境(対応端末・ブラウザ/設置環境/利用するクラウドの条件)
  • 6.7 ユーザビリティ(操作性/アクセシビリティ/教育・マニュアル)

記入ガイド:非機能要件は「速く」「安全に」ではなく、「ピーク時に同時100ユーザーで画面表示3秒以内」のように数値と条件で書くことが必須です。水準を高くするほど費用は上がるため、業務への影響から必要な水準を判断します。項目の抜け漏れを防ぐ方法は、次章で紹介する公的機関の枠組みを参考にしてください。

第7章 システム構成・技術要件

記入欄は次のとおりです。

  • 7.1 構成方針(クラウド/オンプレミス、自社で保有する資産の有無)
  • 7.2 発注側が指定する制約(既存環境との互換性、利用できるクラウドやサービス、社内規程)
  • 7.3 外部連携(連携先/連携する情報/タイミング/連携方式の希望)
  • 7.4 開発会社の提案に委ねる事項

記入ガイド:技術的な選定は開発会社の提案に委ねる部分も多いため、自社として譲れない制約と、提案に委ねる事項を分けて書くことがポイントです。既存システムとの連携がある場合は、連携先の仕様がいつ入手できるかも前提条件として記載します。

第8章 データ要件

記入欄は次のとおりです。

  • 8.1 主要データ一覧(データ名/概要/件数の目安/発生・更新のタイミング)
  • 8.2 データ項目(データごとに:項目名/型・桁数/必須/説明)
  • 8.3 マスタデータの管理(どのシステムを正とするか/更新の責任部門)
  • 8.4 データの保持期間と廃棄

記入ガイド:要件定義の段階では、詳細な物理設計よりも、業務上必要なデータが漏れなく挙がっていることを重視します。「どのシステムのデータを正とするか」を決めておくと、複数システム間のデータ不整合を防げます。

第9章 移行・運用要件

記入欄は次のとおりです。

  • 9.1 データ移行(移行対象/移行方法/移行の責任分担/検証方法)
  • 9.2 切り替え計画(切り替え時期/並行運用の期間/切り戻しの条件)
  • 9.3 運用体制(システム管理者/業務側の運用担当/開発会社の保守範囲と対応時間)
  • 9.4 教育・マニュアル(研修の対象と時間/マニュアルの整備)
  • 9.5 運用開始後の改善(効果測定の方法と頻度/改善の判断者)

記入ガイド:移行と運用は開発が終わってから考えがちですが、要件定義の段階で決めておかないと、稼働直前に体制が整わず遅延の原因になります。「作って終わり」ではなく「使い続ける」前提で要件を定めることが大切です。

第10章 前提条件・制約・変更管理・検収条件

記入欄は次のとおりです。

  • 10.1 前提条件(外部要因、他部門・他社からの提供物とその期限)
  • 10.2 制約事項(法規制/社内規程/予算・期間の上限)
  • 10.3 変更管理(変更申請の方法/影響評価の担当/承認者/文書への反映方法)
  • 10.4 検収条件(検収の対象/受入テストの実施者と方法/合格基準/非機能要件の確認方法)
  • 10.5 リスクと対策(想定されるリスク/影響/対策/担当)

記入ガイド:変更管理と検収条件は、発注側と開発側の双方を守るための項目です。検収条件が曖昧だと「完成したかどうか」で対立が生じるため、必須要件の実装と受入テストの結果、非機能要件の測定方法を具体的に定めることをおすすめします。

このテンプレートの各章に実際の内容を記入した具体例は、要件定義書のサンプル・記入例の記事で紹介しています。記入のイメージをつかみたい方は、あわせて参照してください。

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非機能要件のチェック項目テンプレート

非機能要件は、要件定義で最も抜け漏れが起こりやすい領域です。ここでは、公的機関が公開している枠組みをもとに、非機能要件を確認するためのチェック項目を整理します。第6章の記入時に、項目の抜け漏れの確認に活用してください。

公的機関の枠組みを活用する

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開している「非機能要求グレード」は、システム基盤に対する非機能要求を体系的に整理し、発注者と開発者の認識のずれを防ぐためのツール群です。非機能要求を「可用性」「性能・拡張性」「運用・保守性」「移行性」「セキュリティ」「システム環境・エコロジー」の6つの大項目に分類し、項目ごとに要求の水準をレベルで示せるようになっています。

(出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「非機能要求グレード」 https://www.ipa.go.jp/archive/digital/iot-en-ci/jyouryuu/hikinou/index.html)

項目数が多いため、すべてを使う必要はありませんが、6つの大項目に沿って自社の要件を点検すると、抜け漏れを大幅に減らせます。「この大項目について、自社は何も決めていない」という状態がないかを確認する使い方が実践的です。

6つの大項目に沿ったチェック項目

  • 可用性:稼働時間帯は決めたか/計画停止の頻度と時間帯は決めたか/目標稼働率は決めたか/障害時の復旧目標時間は決めたか/災害時の対応方針は決めたか
  • 性能・拡張性:通常時とピーク時の利用者数は把握したか/画面の応答時間と処理の完了時間は決めたか/データ量の現在値と将来の見込みは把握したか/利用者やデータの増加にどう対応するか決めたか
  • 運用・保守性:バックアップの頻度と保持期間は決めたか/監視の対象と通知先は決めたか/障害時の連絡経路と対応時間は決めたか/定期メンテナンスの方針は決めたか/マニュアルと教育の方針は決めたか
  • 移行性:移行するデータの範囲は決めたか/移行方法と検証方法は決めたか/並行運用と切り戻しの方針は決めたか
  • セキュリティ:認証方式は決めたか/権限の区分は決めたか/通信と保存データの暗号化は決めたか/ログの記録項目と保存期間は決めたか/準拠する法令・規程・ガイドラインは確認したか/外部サービスに渡すデータの範囲は決めたか
  • システム環境:対応する端末・OS・ブラウザは決めたか/利用するクラウドの地域や条件は決めたか/設置環境や電源・ネットワークの条件は確認したか

すべての項目に「はい」と答えられる必要はありません。「決めない」という判断も含めて、検討したうえで結論を出した状態にすることが、非機能要件の抜け漏れをなくす考え方です。

プロジェクトの種類別にテンプレートをカスタマイズする方法

10章構成のテンプレートは、業務システムの新規開発を想定した標準的なものです。プロジェクトの種類や規模によって、章の増減や重点の置き方を変える必要があります。ここでは、代表的な4つのケースについて、カスタマイズの方法を解説します。

小規模開発向けの簡易版

開発費用が数百万円程度で、機能が10個前後の小規模なプロジェクトでは、10章すべてを詳細に書くと負担が大きくなります。次の5章に絞った簡易版が実務的です。

  • 1. 目的とゴール(背景・目的・数値目標・体制・スケジュール・予算を1章にまとめる)
  • 2. 範囲(対象業務・対象外業務・導入後の業務フロー)
  • 3. 機能要件(機能一覧と優先度、主要機能の詳細)
  • 4. 非機能要件(可用性・性能・セキュリティ・運用の要点のみ)
  • 5. 前提条件・検収条件・変更管理

簡易版でも、目的・範囲・機能・非機能・検収条件の5点は省略しないことが原則です。分量よりも、後工程で必要な判断が書かれているかを重視してください。

SaaS導入向けの構成

自社で開発せず、既存のSaaSを導入する場合は、開発する機能を定義するのではなく、SaaSの標準機能と自社の業務の適合を確認する構成にします。第5章の機能要件を次のように置き換えます。

  • 5.1 業務要件一覧(業務上必要な機能・処理の一覧と優先度)
  • 5.2 適合確認(業務要件ごとに:標準機能で対応可/設定で対応可/カスタマイズが必要/対応不可)
  • 5.3 対応不可・カスタマイズ必要項目への対処方針(業務の変更/外部ツールの併用/諦める)
  • 5.4 データ連携要件(既存システムとSaaSの間で連携するデータと方法)

SaaS導入では、システムを業務に合わせるのではなく、業務をシステムに合わせる判断も選択肢に入れることが、費用と期間を抑えるポイントです。

AI開発向けの追加章

AIを組み込んだシステムでは、AIは常に正解を返すわけではないため、従来の要件に加えて次の章を追加します。

  • AI機能の定義(AIに担わせる判断・処理/人が確認・修正する工程/AIが誤った場合の業務上の対応)
  • 精度目標と評価方法(目標とする精度の指標と水準/評価に使うデータ/評価の実施者と時期)
  • 学習・参照データの要件(必要なデータの種類と量/入手可能性/ラベル付けの要否と担当/権利・個人情報の確認)
  • PoC(概念実証)計画(検証する項目/成功基準/期間/PoC結果に応じた本開発要件の見直し方針)
  • 運用時の精度管理(精度の監視方法/再学習の条件と手順/利用するAIサービスのデータ取り扱い条件)

AI開発では、最初にすべての要件を確定させるのではなく、PoCで実現可能性を確認してから本開発の要件を固める進め方が一般的です。「検証してから決める部分」と「最初から決める部分」を分けて書くことが、AI開発のテンプレートの要点です。

AI開発の費用や進め方、開発会社の選び方については、AI受託開発の費用相場と開発会社の選び方の記事でも解説しています。

アジャイル開発向けの構成

反復的に開発を進めるアジャイル開発では、すべての機能要件を事前に確定させるのではなく、「後から変えにくい部分」を要件定義書に定め、個々の機能は開発の反復のなかで詳細化していきます。

  • 事前に確定する章:文書概要、プロジェクト概要(特に目的・ゴール・体制)、システム化の範囲、非機能要件、システム構成・技術要件、前提条件・制約・変更管理
  • 反復のなかで詳細化する章:機能要件(一覧と優先度は事前に定め、詳細は反復ごとに定義)、画面・帳票、データ要件の詳細
  • 追加する項目:反復の期間と進め方/優先順位の決定者と見直しの頻度/各反復の完了基準

アジャイルでも、目的・範囲・非機能・体制といった土台を文書で合意しておくことは欠かせません。「アジャイルだから要件定義書は不要」という誤解は、失敗の原因になります。

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テンプレートの形式の選び方

要件定義書は、Word・Excel・Markdown・クラウド型の文書ツールなど、さまざまな形式で作成できます。ここでは、形式ごとの特徴と使い分け、近年広がっている生成AIの活用について解説します。

Wordが向いているケース

背景・目的・業務フロー・方針など、文章と図で説明する部分が多い場合はWordが向いています。見出しの階層を管理しやすく、改訂履歴やコメント機能を使ったレビューも行いやすい形式です。発注者から開発会社へ正式な文書として提出する場合にも一般的です。

一方で、機能一覧やデータ項目のような表形式の情報を大量に扱うには不向きです。説明的な内容が中心の文書本体をWordで作り、一覧表は別ファイルで管理するという組み合わせが実務的です。

Excelが向いているケース

機能一覧、非機能要件の一覧、データ項目定義、画面・帳票一覧など、表形式で管理する情報はExcelが向いています。並べ替えや絞り込み、要件IDによる他文書との対応付けが容易で、進捗や優先度の管理にも使えます。

ただし、長い文章の記述や、文書全体の構成の把握には不向きです。本文はWord、一覧はExcelという役割分担で、要件IDによって相互に参照する形が、更新のしやすさと読みやすさを両立します。

Markdownやクラウド型文書ツールが向いているケース

開発チームが社内にいる場合や、複数の関係者が同時に編集・コメントする場合は、Markdownやクラウド型の文書ツール(ナレッジ管理ツール、プロジェクト管理ツールの文書機能など)が向いています。バージョン管理システムと組み合わせれば、変更履歴の追跡も容易です。

発注者と開発会社の間で正式な合意文書として扱う場合は、承認時点の版をPDFなどで固定して保管しておくと安心です。編集のしやすさと、合意した版の固定を両立させる運用を決めておきましょう。

生成AIをテンプレートの記入に活用する

近年は、生成AIを使って要件定義書の下書きを作成する取り組みが広がっています。ヒアリングの議事録や既存の業務マニュアルを入力し、テンプレートの各章に沿った草案を作らせる、書いた要件の曖昧な表現や抜け漏れを指摘させる、といった使い方です。

ただし、生成AIは自社の業務や関係者の意向を知りません。出力された内容が自社の実態に合っているか、関係者が合意できる内容かの判断は、必ず人が行う必要があります。下書きと点検を生成AIに任せ、判断と合意形成は人が担うという役割分担で活用すると、作成の負担を減らしながら品質を保てます。

テンプレート活用時のチェックリストと注意点

テンプレートを埋め終えたら、要件定義書として機能する状態になっているかを確認します。ここでは、完成前に確認したいチェックリストと、テンプレート活用でよくある失敗への対策を解説します。

完成前のチェックリスト

  • 目的とゴールは、数値で達成を判定できる形で書かれているか
  • 対象外の業務・機能が明記されているか
  • すべての機能要件に要件IDと優先度が付いているか
  • 機能要件が現状の課題と対応付けられているか
  • 非機能要件が数値と条件で書かれ、6つの大項目について検討されているか
  • 自社が指定する技術的な制約と、開発会社の提案に委ねる事項が分かれているか
  • 移行と運用の体制・責任分担が決まっているか
  • 変更管理の手順と検収条件が具体的に書かれているか
  • 曖昧な表現(使いやすい、高速、十分な、など)が残っていないか
  • 業務部門・情報システム部門・経営層・開発会社のそれぞれがレビューし、承認したか

すべてに「はい」と答えられる状態が、テンプレートを使った要件定義書の完成の目安です。1つでも「いいえ」があれば、その項目を関係者と確認してから確定しましょう。

項目を埋めることが目的にならないようにする

テンプレートを使うと、すべての項目を埋めた時点で完成したように感じます。しかし、項目が埋まっていることと、内容が正しく関係者に合意されていることは別です。特に、開発会社にテンプレートの記入を依頼した場合、技術的な項目は充実する一方で、業務上の判断が曖昧なまま残ることがあります。

要件を決める責任は発注側にあり、業務部門の責任者が目的・範囲・優先度・検収条件を自ら判断するという姿勢を保ちましょう。社内に知見が不足している場合は、要件定義の段階から発注側に立って伴走してくれる会社に相談するのも一つの方法です。

テンプレートを組織の標準として育てる

一度使ったテンプレートは、プロジェクトの振り返りをもとに改善し、自社の標準として蓄積していくと、次のプロジェクトの品質と効率が上がります。「この項目があれば手戻りを防げた」「この章は自社には不要だった」という気づきを反映し、自社に合った型に育てていきましょう。

テンプレートは配布されたものをそのまま使い続けるものではなく、自社の経験を蓄積する器です。要件定義のたびに見直すことで、組織としての要件定義の力が高まっていきます。

システム開発やAI活用の進め方については、NextScaleのコラム一覧でも関連記事を公開しています。

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まとめ

要件定義書のテンプレートは、記載項目の抜け漏れを防ぎ、作成を効率化するための「型」です。本記事では、文書概要からプロジェクト概要、現状と課題、システム化の範囲、機能要件、非機能要件、システム構成、データ要件、移行・運用要件、前提条件・変更管理・検収条件までの10章構成と、各章の記入欄・記入ガイドを紹介しました。

非機能要件は、公的機関の枠組みである6つの大項目に沿って点検すると抜け漏れを減らせます。プロジェクトの種類によって、小規模向けの簡易版、SaaS導入向けの適合確認型、AI開発向けの追加章、アジャイル向けの事前確定と反復詳細化の切り分けといったカスタマイズが必要です。

形式は、本文をWord、一覧をExcelで管理し要件IDで対応付ける組み合わせが実務的で、生成AIは下書きと点検に活用できます。テンプレートを埋めることを目的にせず、目的・範囲・優先度・検収条件を発注側が自ら判断し、関係者の合意を得た状態を完成の基準として、自社に合った型に育てていってください。

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この記事の監修者

石丸真平

石丸真平

株式会社ネクストスケール 代表取締役

株式会社ネクストスケールの代表。「AI時代に勝てる企業組織を共に創る」を掲げ、法人向けの生成AI研修とAX(AIによる企業変革)の伴走支援を手がける。経営課題の整理からAI活用領域の設計、ツール選定、業務への組み込み、社内定着、ROI測定までを一気通貫で支援。単なる効率化ではなく、経営戦略としてAIを活かす視点での支援を得意とする。Xでは「本当に仕事で使えるAI」をテーマに、実務で使えるノウハウを発信している。
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