人材育成でのAI活用 業務別の使い方と評価に使う際の法的な線引き【2026年】
2026年8月20日
著者:NEXT SCALE編集部
監修者:石丸真平

研修資料の作成、スキルの棚卸し、育成計画の策定。人材育成の業務は、担当者の時間を大量に消費します。一方で、一律の研修では成果が出にくく、個別に対応する余力もないという板挟みに陥っている人事部門は少なくありません。
この状況を緩める手段としてAIが注目されています。ただし人事領域には、他部門とは異なる制約があります。従業員の評価や処遇に関わる判断は、個人情報保護法や労働法制の観点から慎重な扱いが求められるためです。
本記事では、育成業務のどこにAIが効くのかを整理したうえで、任せてよい領域と人が担うべき領域の線引き、そして導入時に確認すべき法的な論点を扱います。AI人材を育てる方法ではなく、AIで育成業務そのものを変える内容です。
| 確認したいポイント | 結論 | 詳細 |
| どの業務に効く? | 資料作成と計画策定から | 研修コンテンツの素案、スキルマップの設計、育成計画の作成で効果が出ます。 |
| 評価にも使える? | 評価そのものは任せない | 処遇に関わる判断は、法的リスクと従業員の納得感の両面で慎重な扱いが必要です。 |
| 何が変わる? | 一律から個別最適へ | 限られた人員でも、個々の状況に応じた育成支援が現実的になります。 |
| 注意すべき点は? | 人事データの取り扱い | 個人情報保護法や労働法制の観点から、入力してよい情報の線引きが必要です。 |
この記事でわかること
・人材育成業務でAIが効く5つの領域
・AIに任せてよい領域と、人が担うべき領域の線引き
・人事データを扱う際に確認すべき法的な論点
・導入の進め方と、社内で決めておくべきルール
・従業員の納得感を保つための設計
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人材育成業務が抱える構造的な課題
なぜこの領域でAIが注目されているのか。背景を整理すると、どこに効くのかも見えてきます。
一律の研修では成果が出にくい
全員に同じ内容を提供する形では、多くの参加者にとって過不足のある内容になります。すでに知っている人には冗長で、前提知識がない人には難しすぎるという状態です。
本来は個々の状況に応じた内容が望ましいものの、そこまで手が回らないというのが実情です。受講者が数百人を超えると、個別対応は現実的でなくなります。
結果として、実施したことが成果として扱われ、実際に何が変わったかは問われないという運用に陥りがちです。
現場ごとのスキル差を把握できていない
誰が何をできるのかを、組織として把握できている企業は多くありません。把握できていなければ、誰に何を提供すべきかも判断できません。
スキルマップを作ろうとしても、項目の設計とレベルの定義に膨大な工数がかかります。この作業の重さが、着手を止めている主因になっています。
作成できたとしても、更新が追いつかず形骸化するケースも多く見られます。一度作って終わりにできない性質の資料です。
育成担当者の負担が大きい
研修の企画、資料の作成、受講者への連絡、効果の測定と、担当者が担う範囲は広くなります。多くの企業では専任を置けず、他業務との兼務になっています。
とくに時間を消費するのが、資料や教材の作成です。内容を考える工程より、形にする工程に時間が取られている状態は珍しくありません。
この負担が、育成施策そのものの頻度を制限しています。実施したくてもできないという状況が、多くの現場で起きています。企画する時間より、形にする時間のほうが長いという逆転も珍しくありません。
評価と育成が分断されている
4つ目が、制度間のつながりです。評価の結果が育成に活かされず、育成の成果が評価に反映されないという状態が広く見られます。
評価で課題が指摘されても、それを埋めるための手段が用意されていなければ、指摘は改善につながりません。逆に、学んだ成果が処遇に反映されなければ、学ぶ動機も生まれません。
この分断を埋めるには、スキルの状態を継続的に把握する仕組みが必要になります。手作業では維持できないため、ここもAIが効く領域になります。
効果測定そのものが難しい
5つ目の課題が、成果を測れないことです。研修を実施しても、それが業務にどう影響したかを説明できない状態が続いています。
受講者数や満足度は測れても、実際に業務が変わったかは追いにくい性質があります。測定の仕組みを作る余力がないことも、この状況を長引かせています。
効果を示せなければ、次の予算も確保できません。育成への投資が増えない構造には、この測定の困難さも影響しています。
関連記事:AI人材育成の進め方|公的指標を使った設計と3階層別のカリキュラム【2026年】
AIが効く5つの業務領域
課題が整理できたところで、具体的にどこに使えるのかを見ていきます。効果が出やすい順に5つ挙げます。
領域1|研修コンテンツの作成
最も導入しやすく、効果も実感しやすい領域です。研修の構成案、説明資料、演習の課題、確認テストの作成が対象になります。
ゼロから作る工程が最も時間を要するため、たたき台があれば大幅に短縮できます。自社の業務内容を渡せば、実務に即した題材も作れます。
既存の教材を別の対象向けに作り替える用途にも使えます。管理職向けの内容を新人向けに書き換えるといった調整が、短時間で済みます。
領域2|スキルマップの設計
着手の重さで止まっていた作業を、現実的な範囲に収められます。職種ごとに必要なスキル項目を洗い出し、レベルの基準を作る工程です。
業務内容と求める人材像を伝えれば、項目の候補とレベル定義の素案が得られます。ゼロから考えるより、提示された案を修正するほうが早く進みます。
ただし、出てきた項目をそのまま採用してはいけません。自社の業務に固有の要素が抜けている可能性があるため、現場の担当者と確認する工程が必要です。
領域3|育成計画の作成
現状のスキルと目標との差を踏まえ、どの順序で何を学ぶべきかを組み立てる工程です。個人ごとに作るのは負担が大きく、後回しにされがちな領域になります。
必要なスキルと現状を渡せば、学習の順序と手段の組み合わせを提案させられます。社内研修、外部の講座、実務経験をどう配分するかまで含めて検討できます。
この領域は、限られた人員でも個別対応を可能にする点で価値があります。全員に同じ計画を渡していた状態から、一歩進めます。
領域4|学習履歴の分析
受講記録や理解度の確認結果を分析し、傾向を把握する用途です。どこでつまずく人が多いか、どの内容が定着していないかが見えてきます。
分析結果は、次の研修内容の改善に直結します。多くの人がつまずいている箇所があれば、教え方に問題がある可能性を検討できます。
個人単位ではなく、全体の傾向を見る使い方から始めるのが安全です。個人の評価に踏み込むと、後述する法的な論点が生じます。
領域5|フィードバックの支援
上司から部下への助言を支援する用途です。伝え方の案を作る、観点の抜けを指摘するといった形で使えます。
指導する側の負担軽減と、質のばらつきの抑制の両方に効きます。上司によって指摘の粒度が変わる状態は、受ける側の納得感を損ないます。
ただし、伝える内容そのものを丸ごと任せるのは避けてください。相手を見て判断する部分は、上司の責任として残す設計が必要です。
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関連記事:AIの活用例|業務別・業種別の使いどころと効果が出る条件【2026年最新】
対象者の階層別に見た使い分け
同じ育成業務でも、誰を対象とするかで効く使い方は変わります。ここでは4つの階層で整理します。
新入社員・若手
この層では、教材の量が必要になります。基礎知識、業務手順、社内制度と、カバーすべき範囲が広いためです。
既存の資料をもとに、練習問題や理解度の確認テストを作らせる使い方が効きます。同じ内容で難易度を変えた問題を複数作るといった作業も、短時間で済みます。
質問に答える仕組みを用意する方法もあります。社内規程や手順書を参照させておけば、先輩に聞かなくても解決できる範囲が広がり、教える側の負担も減ります。
中堅社員
この層の課題は、標準的な研修では対応しにくい点にあります。すでに一通りの業務はでき、必要なものが人によって異なるためです。
個別の育成計画を作る用途が最も効きます。現在の状況と目指す方向を渡せば、学ぶ順序と手段の組み合わせを提案させられます。
全員分を人手で作るのは現実的でないため、この層への個別対応はこれまで放置されがちでした。ここに手が届くようになる点が、実務上の変化になります。
管理職
管理職向けでは、部下への指導を支援する用途が中心になります。1対1の面談の準備、助言の伝え方の検討といった場面です。
面談前に論点を整理させる、伝え方の案を複数出させるといった使い方が有効です。指導の質が上司によってばらつく問題への対処になります。
ただし、部下の評価に関わる内容を扱う際は注意が必要です。個人が特定できる情報を入力するかどうかは、社内のルールに従ってください。
経営層
経営層に対しては、育成そのものより判断材料の提供が中心になります。人材の状況を整理し、投資判断に使える形にまとめる用途です。
部門ごとのスキル充足状況、育成にかかっている費用、施策の効果といった情報を整理させると、議論の土台になります。
あわせて、経営層自身がAIの特性を理解する機会も必要です。何ができて何ができないかの判断ができなければ、投資の可否も決められません。
関連記事:DX人材育成の始め方|6類型での棚卸しと国際比較で見る日本の課題【2026年】
任せてよい領域と人が担う領域
人事領域では、この線引きが他部門以上に重要になります。従業員の処遇に関わるためです。
評価そのものは任せない
最も明確な線引きがここです。人事評価の判断をAIに委ねることは、法的にも運用面でも避けるべきです。
評価は従業員の処遇と直結し、人間の尊厳に関わる領域です。バイアスの排除、説明責任の確保、従業員の信頼維持という3つを満たせない状態での活用は、利点よりリスクが上回ります。
AIが担えるのは、評価の材料を整理するところまでです。実績データの集計、記録の整理、面談前の論点整理といった支援に留めてください。
配置や登用の判断も同様
誰をどこに配置するか、誰を登用するかという判断も、AIに委ねるべきではありません。評価と同じ性質の判断だからです。
候補者の情報を整理する、比較しやすい形にまとめるといった支援は有効ですが、最終的な判断は人が行ってください。
この線引きを社内で明文化しておくことが重要です。曖昧なまま運用すると、実質的にAIの提案どおりに決まっているという状態が生じます。
任せてよいのは作成と整理
逆に、安心して任せられるのが作成と整理の工程です。判断を伴わない作業であれば、リスクは限定的になります。
資料の作成、案の提示、データの整理、傾向の把握といった領域は、積極的に活用すべき部分です。ここで浮いた時間を、判断や対話に振り向けられます。
作成された内容の確認は必要ですが、それは通常の業務でも行うことです。ゼロから作る負担がなくなる点が、実務上の価値になります。
従業員への説明も設計に含める
見落とされやすいのが、使っていることを従業員にどう伝えるかです。隠して使うと、発覚した際に信頼を大きく損ないます。
どの業務でどう使っているか、評価には使っていないことを明示してください。説明できる状態にしておくことが、運用を続ける前提になります。
とくに人事領域では、従業員の不安が生じやすい性質があります。効率化のためであり評価には用いないという方針を、明確に共有しておくべきです。
人事データを扱う際の法的な論点
ここが他部門との決定的な違いです。人事領域には固有の規制があり、確認を飛ばすと問題になります。
個人情報の取り扱い
従業員のスキル情報、評価履歴、面談の記録といったデータは、いずれも個人情報にあたります。外部のAIサービスで処理することの意味を整理しておく必要があります。
個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用について注意喚起を公表しており、個人情報を含む入力を行う場合は、特定した利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。
詳細は同委員会の注意喚起で確認できます。実務では、氏名を伏せて条件だけを渡す方法でも多くの用途は成立します。
労働法制との関係
個人情報保護法だけでなく、労働に関する法制も意識する必要があります。とくに注意すべきが、判断の偏りです。
AIによる推測や評価に偏りが生じ、特定の属性を持つ個人を不当に低く評価した場合、差別的な取扱いに該当するおそれがあります。男女雇用機会均等法や職業安定法の観点から問題になり得る領域です。
この点も、評価そのものをAIに委ねるべきでない理由の1つです。判断を人が行っていれば、この種のリスクは大きく下がります。
取得と利用の目的を明示する
従業員や応募者の情報を扱う際は、何のために取得し、どう使うかを事前に知らせておく必要があります。
無制限に情報を取得し、無制限に利用してよいわけではありません。利用目的を特定し、その範囲内で扱うことが求められます。
AIで処理することを新たに始める場合、既存の利用目的に含まれているかを確認してください。含まれていなければ、周知や同意の手続きが必要になる場合があります。
配慮を要するデータもある
人事が扱うデータの中には、法令上とくに慎重な扱いが求められるものがあります。健康に関する情報が代表例です。
心身の状態に関する検査の個人結果などは、AIの分析対象に含めない運用が基本になります。法令上の制約があるため、便利だからという理由で使ってはいけません。
どのデータが該当するかは、自社の状況によって変わります。判断に迷う場合は、法務や社会保険労務士に確認したうえで線引きを決めてください。
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導入の進め方
制約を踏まえたうえで、どう進めるかを整理します。段階を分けることで、リスクを抑えながら効果を確認できます。
個人情報を含まない業務から始める
最初に着手すべきは、従業員の個人データを扱わない業務です。研修資料の作成、スキル項目の設計、教材の作り替えが該当します。
この領域であれば、法的な確認事項が少なく、すぐに始められます。効果も作成時間の削減として測りやすくなります。
ここで効果を確認してから、個人データを扱う領域へ広げる順序が安全です。最初から評価や配置に使おうとすると、検討が長期化して着手できません。
扱ってよいデータの範囲を決める
個人データを扱う段階へ進む前に、線引きを文書化してください。担当者の判断に委ねる状態は避けるべきです。
決めておきたいのは、入力してよいデータの種類、氏名を伏せる運用の有無、使用するサービス、そして評価には用いないという方針の4点です。
法人向けの契約であれば、入力内容が学習に使われない設定にできます。人事データを扱う以上、この環境を用意したうえで運用してください。
効果を数字で測る
導入前の数値を記録していなければ、効果を比較できません。着手と同時に測定を始めてください。
測りやすいのは、研修資料の作成にかかる時間、実施できた施策の回数、そして受講者の理解度です。担当者の負担が減った分を、何に使ったかも記録しておくと説明しやすくなります。
情報処理推進機構の調査では、成果指標を設定している企業は23.9%にとどまりました。測れるものから始めれば十分に機能します。
人事部門自身のリテラシーを上げる
見落とされやすいのが、使う側の理解です。人事担当者がAIの特性を理解していなければ、出力の妥当性を判断できません。
とくに理解しておくべきは、事実と異なる内容がもっともらしく出力される性質と、入力データによって結果が偏る可能性です。この2点を知らずに使うと、誤りに気づけません。
他部門の育成を担う立場だからこそ、自部門の理解が先に必要になります。ここが不十分なまま全社展開を進めると、説明できない事態が生じます。
従業員の納得感を保つ設計
人事領域では、効率化と同じくらい信頼が重要になります。ここを軽視すると、制度そのものへの不信につながります。
透明性を確保する
どの業務でAIを使っているかを、従業員に開示してください。隠して使う運用は、発覚した際の損害が大きくなります。
開示すべきは、使っている業務の範囲、使っていない業務、そして扱っているデータの種類です。評価には使っていないことを明示するだけでも、不安は大きく減ります。
説明の機会を設けることも有効です。一方的な通知より、質問に答える場があるほうが受け入れられます。
判断の根拠を説明できる状態にする
育成計画や配置の提案にAIを使う場合、なぜその内容になったかを説明できなければなりません。
AIが提案したからという説明では、従業員は納得しません。提案を受けたうえで、人がどう判断したかを説明できる状態にしておく必要があります。
この観点からも、AIの役割を材料の提供に限定する設計が合理的です。判断を人が行っていれば、説明責任も果たせます。
偏りがないか定期的に確認する
AIの出力に偏りが生じていないかを、定期的に検証してください。一度確認して終わりにはできません。
確認すべきは、特定の属性の人に不利な傾向が出ていないか、特定の部署だけ扱いが異なっていないかです。気づかないうちに偏りが定着する可能性があります。
検証の結果は記録に残してください。問題がなかったことを説明できる状態にしておくことが、信頼の維持につながります。
外部の知見を組み合わせる
人事領域でのAI活用は、法的な確認と業務設計の両方が必要になります。片方だけでは進められません。
すでに導入経験のある支援先に、業務の切り出しから運用設計までを相談する方法もあります。検証にかける期間を短縮でき、初期段階でのつまずきを避けやすくなります。
ネクストスケールでは、生成AIの業務活用に関する情報をコラムでも継続して発信しています。検討を進める際の材料としてあわせてご覧ください。
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まとめ
人材育成でAIが効くのは、研修コンテンツの作成、スキルマップの設計、育成計画の作成、学習履歴の分析、フィードバックの支援という5つの領域です。いずれも担当者の時間を大量に消費していた工程にあたります。
一方で、評価や配置の判断そのものは任せるべきではありません。従業員の処遇に直結し、バイアスの排除と説明責任が求められる領域だからです。AIが担えるのは、判断の材料を整理するところまでです。
人事データを扱う以上、個人情報保護法に加えて労働法制も意識する必要があります。判断に偏りが生じ特定の属性を不当に低く評価した場合、差別的な取扱いに該当するおそれがあります。
進め方としては、個人情報を含まない資料作成から始めてください。効果を確認してから、扱ってよいデータの範囲を決めたうえで個別支援へ広げる順序が安全です。あわせて、使っていることを従業員に開示する設計を組み込んでください。透明性を確保できているかどうかが、制度への信頼を左右します。
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この記事の監修者
石丸真平
NEXTSCALE コンサルタント / AI活用・業務効率化支援
ワイヤー段階では、監修者名、肩書き、プロフィール本文、関連リンク、著者導線がどのように入るかを確認できる構成にしています。実装時には実際のプロフィール文や外部リンク、SNSアカウント情報などに差し替える想定です。

